ベンチャー法務の部屋

大学発ベンチャーのとるべき行動

先週末にアップした「ベンチャー企業のファイナンス方法の選択」の続きである。

先日、紹介した内閣府の「日本の大学発ベンチャーが悲惨な失敗をしないためのポイント ハイテク・ベンチャー不毛の地での賢い立振舞について ~モジュール化時代の日本凋落の真因 その2~」 (PDFファイル)には、「大学発ベンチャーの取るべき正しい行動」として、以下のリストがあげられていましたので、検討したい。

・融資(debt)には手を出さない。個人保証もしない。原則として、エクイティ+若干の自己資金。補助金も裏負担・支払時期などの変動リスクに十分留意する。

・成功の見込みがなくなった時点で、早期に清算する。(累積赤字を抱え込み、破綻を待つのは愚の骨頂。)

・バーン・レート(手元資金量/毎日の出費=残存可能日数)を極力引き下げる。

・創業時にマーケットの専門家を参加させる。

・できれば、創業メンバーに外国人を入れる。(出身国市場を直接・間接に理解し、パートナーシップやビジネス交渉の際に力を発揮する。資金調達等でもネットワークを利用できる可能性が高い。シリコンバレーでは自然にこうしたチームができる。)これによって、最初からグローバルな発想ができる。

これを1つずつ検討する。

1.融資(debt)には手を出さない。個人保証もしない。原則として、エクイティ+若干の自己資金。補助金も裏負担・支払時期などの変動リスクに十分留意する。

大学発ベンチャーを始めとする研究開発先行型のベンチャーは、当初、投資ばかりで、収益が生まれない状況が続くことが多い。このようなビジネスモデルでは、新株発行による資金調達の方が適していることは、前回、述べたとおりである。

融資(debt)は絶対に現金ということではないであろうが、シードやアーリーの段階ではしないほうがよい。多分、借入をしようとしても、銀行が貸してくれないことが多いであろうが、創業1年未満の場合等、公的金融・公的保証を通じて借入ができてしまうことがある。安定的な収益が得られているのであれば、安定収益とのバランスで、借入をすることは悪いことではないが、その場合であっても、控え目にするべきであろう。基本的に、急成長を目指すハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルであるベンチャー企業には、融資(debt)は、向いていないのは確かである。

前回も指摘したが、新株発行に際して締結される投資契約や株主間契約における、経営株主の買取条項は、借入の際の個人保証とはかなり異なる。経営株主の買取条項は、ある程度受け入れるのはやむを得ない。

原則として、エクイティ+若干の自己資金。とある点は、どのような意味であるかは完全には測りかねる。ただ、経営者が自己資金を入れていない場合、エクイティによる調達は難しいであろうし、経営株主の持ち分が低すぎると、IPOに際しては「安定株主がいないので、安定株主を作って下さい」等と主幹事の証券会社から指摘を受けることがある。VC(ベンチャー・キャピタル)やエンジェルの持分は、低めに抑えたいというのが社長の心情であることが多いであろうが、現実にバランスをとるのは、なかなか難しい。

2.成功の見込みがなくなった時点で、早期に清算する。(累積赤字を抱え込み、破綻を待つのは愚の骨頂。)

これはその通り。成功の可能性があるのであれば、追加投資でしのぐなり、他の方法で、生き延びるなり、検討していただいて、その成果を残す方向で検討してほしいが、成功の可能性が相当程度低くなった時点で、清算するべきであろう。借入や買掛金がない場合、「破産」ではなく、会社法上の「清算」となることが多いので、それほど手間や費用はかからない。清算するためには、株主への説明及び説得が必要なのは勿論である。会社法上、会社の解散は、株主総会の特別決議が必要である。

ただ、現実に、「成功の見込みがなくなった」と判断するのは、難しい。VCファンドも、ファンドの出資者(LP:有限責任組合員)に説明責任を負う以上、なぜ失敗と判断したのか、なぜ失敗したのかを説明しなければならないため、株主に誠意をもって説得する必要がある。

3.バーン・レート(手元資金量/毎日の出費=残存可能日数)を極力引き下げる。

わかりにくい表現であるが、おそらく、月々の支出額を引き下げて、残存可能日数を極力大きくしろという趣旨と思われる。

個人的には、やや疑問である。すなわち、やみくもに資金を出し惜しみするのは、出資の趣旨から外れることがあるからである。ビジネスモデルとの兼ね合いで、意味のない設備投資は、当然控えるべきであり、削るべき支出は極力減らすべきである。たとえば、椅子や机に高いお金を出したり、意味なく高い賃料のところに入ったり、必要最小限の人材以外の人を雇用したり、高いサーバーを導入したり、といった支出は避けるべきである。最近は、全員がスマートフォンを持って、無料のクラウドサービスを利用すれば、この手の設備投資は極力抑えられるようになってきている。

とはいえ、本来の目的遂行のためにお金を使わないことは、投資家側からすると何のために出資したのかということにもなりかねない。必要なコンサルタントは、どんどん雇って、プロジェクトをどんどんと前に進めることが必要である。そのスピードのためにVCからの資金があると言っても過言ではない。ここでは「コンサルタントを雇う」という表現としたが、最近の日本でも、様々な業務分野で、業務受託という形で参加するコンサルタントやプロフェッショナルが増えてきたので、このような各分野のコンサルタントやプロフェッショナルを、(雇用契約は出来る限り避けて)業務委託の形で、活用すべきである。本業以外の仕事や、本業の価値をさらに高める仕事を、アウトソースすべき場合は少なくない。仮に、自分で勉強すればできるといっても、プロの方が確実だし、時間のことを考えると、結局、費用対効果が良いことが多い。

4.創業時にマーケットの専門家を参加させる。

これは先の段落と通じる話であり、マーケティングなしで、開発することは、趣味の世界では許されても、投資家から出資を受けて行うビジネスの世界では許されない。ただ、マーケティングといっても、見込み顧客が求めているモノやサービスを作ることのみを意味するのではないことは、よく指摘されるところではある。これ以上は、私の専門外ではあるが、いずれにせよ、どれだけ技術系の会社であっても、マーケットの専門家は必要である。

本で読んだ知識であるが、シリコンバレーのIT系ベンチャーでは、Marketing Communications Specialistというスペシャリストが活用されることがあるようだ。シードやアーリーのステージでは、マスメディアやネット広告を大量に使うようなタイプの宣伝は、資金不足で難しいことが多い。そこで、少ない予算で大きな成果を上げられるようなPRを考えるスペシャリストが登場するというわけだ。日本で、真のMarketing Communications Specialistがどの程度いるのかはわからないが、是非、積極的な活用を検討されたい。

5.できれば、創業メンバーに外国人を入れる。

これも、理想としては、その通りである。スタートアップから海外を意識することの重要性は、いろいろなところで語られている。日本のベンチャー企業でも、海外の著名エンジェル投資家から資金調達できる時代である(mygengoの例等)。ただ、現実には、難しいことが多いかもしれない。また、当然のことながら、外国人であれば誰でもよいわけではない。それなりに、ビジネスの経験やベンチャーの経験のない外国人を仲間に入れても、あまり大きな意味はないであろう。できれば、シリコンバレーにいたことのある人間か、どこかでベンチャーを立ち上げたことのある人間が良い。

まとめると、内閣府のレポートについては、資金の使い方等に少し捕捉をさせていただく形になったものの、総じて同意する。議論の中で、「アメリカでは、世界中から優秀な起業家を集めるための「起業ビザ新設」の議論が進んでいる」なる記載があるが、日本でも、経済特区制度等を活用して、このような仕組みができないであろうか。優れたベンチャー企業を多く生み出すことは、経済を活性化し、眠っている人的資産・知的資産を活用することに繋がり、雇用を生み出す。折角、立ち上げたベンチャー企業であるので、実情に即して、内閣府のアドバイスを活用して頂けると、よい循環が生まれるのではないだろうか。

執筆者
S&W国際法律事務所

お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top