株式譲渡契約に関する注意点(1)
前回のブログでは、株式譲渡契約における価格調整条項の内容に関する裁判例を紹介し、株式譲渡価格決定の基礎となる対象会社の財産状況が試算された日(基準日)から実際の株式譲渡の日までの間に時間的間隔がある場合に注意すべき点について説明をしました。
もっとも、株式譲渡契約においては、その他にも注意すべき点が多々存在するため、その注意点について説明をしたいと思います。
1 譲渡の合意
株式譲渡契約とは、株式の売買契約を意味します。そこで、まずは、目的物となる株式を特定し、その所有権の移転を約するとともに、その対価である代金を定める必要があります。
(1)株式の特定
譲渡の対象となる株式を明確に特定する必要があります。
一般的に、発行会社、株式の種類及び数で特定します。
なお、対象会社が株券発行会社の場合には、株券番号によっても特定を行う方法が考えられます。
(2)譲渡価格
譲渡価格の算定方法には様々な方法があるものの、株式譲渡契約書には、当事者間で合意した価格を記載します。
もっとも、株式譲渡契約の締結から実際に株式譲渡が行われる日までの間に時間的間隔がある場合には、両時点において対象会社の価値が変動する場合があります。
そのため、事後的に価格調整を行うための価格調整条項を設けることが考えられます。但し、前回のブログで紹介した裁判例のように、価格調整条項を設けていたとしても、どの範囲の変動が価格調整の対象になるのか、ということが争われることがあるため、この点についても事前により明確に定めておくことが望ましいと考えます。
上記売買契約の一般的な内容に加え、株式譲渡によってある企業の株式を取得するということは、その企業そのものを取得するという側面があるため、通常の売買契約とは異なる視点で注意をしなければならない点がありますので、以下、説明します。
2 株式の譲渡と譲渡代金の支払い
(1)譲渡日に加え、時間や場所等について定めることが考えられます。
(2)同時履行の確保
対象会社の株式の移転と、対価である代金の支払いとは、同時履行の関係にあるのが原則であり(民法533条)、この原則に従って、契約と同時に株式は移転し、対価の支払義務が生じることとなります。
そのため、株式の移転に必要な書類交付の履行時期と、代金の支払時期や条件を明確にすることが考えられます。
(3)株式譲渡に要する手続
株式譲渡に必要な会社法上の手続は、①対象会社が株券発行会社か否か、②当該株式が譲渡制限株式であるか否かによって異なります。
①まず、対象会社が株券発行会社である場合、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件であるため(会社法128条1項)、株券の交付が必要となります。したがって、株券が発行されていない場合には、株券を発行してもらい交付を受けることとなります。もっとも、株券を所持することで喪失する危険性があるため、譲受人から会社に対して株券不所持の申し出(会社法217条1項)を行うことが考えられます。
次に、株主名簿の書換えが会社に対する対抗要件として必要となります(会社法130条1項、2項)。
一方、対象会社が株券不発行会社である場合、株券の交付は必要とされませんが、会社その他の第三者に対する対抗要件として株式名簿の書換えが必要となります(会社法第130条1項)。
②当該株式が譲渡制限株式である場合、対象株式を譲渡するためには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければなりません(会社法139条1項)。もっとも、定款に別の定めがある場合(会社法139条1項但書)もあるため、対象会社の譲渡承認機関については定款または登記簿謄本確認が必要です。
上記①②の内容によって、株式の所有権の移転に必要とされる資料や手続が異なることから、契約の際には注意が必要となります。
次回も引き続き、株式譲渡契約に関する注意点について説明をします。
(文責:三村雅一)