「挑戦せよ」国立国会図書館館長からのメッセージ
先週末に、出席したSessionの中で、事前の予想に比して最も面白かったものが、5月29日(日)に京都大学で開催された超交流会2011の「情報学の学生よ、挑戦せよ」でした。
このSessionでは、国立国会図書館館長であり、京都大学の第23代総長でもある長尾眞京都大学名誉教授がご登壇されました。
正直、私は、法学部出身で、長尾先生の業績は全く存じ上げず、入学時に総長をされていたといった記憶しかありませんでした。
しかし、長尾先生は、パワーポイント等をいっさい使わずとも、力強いメッセージを発することができるということ、そして、チャレンジ精神、ベンチャー精神に年齢等全く関係ないことを、このSessionで証明されました。充実した講演でした。
長尾先生は、情報学という学問の礎を作られた先生でおられ、言語処理等の分野で、相当以前から、今のGoogleやWikipediaで実現しようと挑戦している内容を既に30年近く前に提唱されていたとのことです。そのご講演の中で、私が印象に残った話を取り上げさせていただきます。
(過去を振り返って)
・ 機械翻訳はいずれ必ず成功する。今は、日韓で97~8%、日英で85%、日中で70~5%くらい。
・ 1994年には電子図書館というテーマで、いずれは、本単位から欲しい情報のユニット単位で検索・調査し、hypertext構造によって自動発見+リンクで、情報がリンクされる時代になると考えていた。
・ その時代に、情報端末とそのインターフェースが重要となるはずとも考えていた。
(若い人へのメッセージ)
・ 何でも面白いことをやりなさい。
・ 電電(京都大学工学部電気電子工学科の意)の同窓会に出席したが、あまり熱気がない。規制(既成?)の枠、よろしくない。
・ 今の時代、40代の人より、20代、30代の人の方が面白い。特に、判断力があり、仲間とやることに慣れており、孤立していない。競争相手と上手にコミュニケーションをとっている。
・ 他の分野の人間ともっと交わること。今の情報学の世界、エンジニアの人は、法学や社会学の視点がかけていることが少なくない。
・ 関西は、せっかく京都・大阪・神戸・奈良等と文化の違うエリアがあるのに、バラバラのままで、切磋琢磨がないのがもったいない。
・ 自分たちの文化をもっと大切にせよ。浮世絵等の江戸文化は、それそのものが世界に誇れるものだし、通用するものである。外ばっかりキョロキョロ見るのではなくて、「自分は、これをやることで世の中の役に立つ」ということをやっていると、結果的に世界に通用する。
・ 20世紀は科学技術の時代。21世紀は確立した法則を用いて新しいものをクリエイトする時代。
・ 情報学を情報科学という名前にしなかったのは、「科学」という枠にとらわれないようにするため。
・ 国立国会図書館の全ての情報を電子化したい。
・ 日本の著作権法の問題は深刻。
・ (「「面白いこと」の判断基準はありますか」という質問に対し)常に何が面白いかということを発見するには、惨憺たる苦労が必要。常に考え続けるべき。こんなことが面白いんじゃないか、あんなことが面白いんじゃないかと辛抱強くいろいろ考えているうちに、ある瞬間に「これだ」というのが出てくる。辛抱強く考えるというのが、簡単そうで意外に難しい。
・ (「素敵だと思う人はいますか。どういう基準ですか」という質問に対し)セネカやキケロをはじめ、本の中には沢山いる。現に会った中では、業績や肩書きではなく、やっぱり人間的魅力。人柄。
私見が混じってしまったものや、意訳や誤解等があるかもしれませんが、お許しいただければ幸いです。間違いがあれば、訂正いたします。
実際の講演では、国立国会図書館館長という肩書きからは想像もつかない程、今もチャレンジし続けておられることがよくわかる話が満載でした。株式会社はてなの近藤淳也社長が、1人の京大卒業生として、「卒業式のときに、旅行にいって出席せず、先生の話を聞けなかったことをとても後悔しました。」と言っておられたのが印象的でした。
なお、長尾先生は昨年、自叙伝「情報を読む力、学問する心 」を出版されたとのことです。この本を見れば、だいたい同じようなことが書かれているはずとおっしゃってました(私もまだ購読できていません。悪しからず。)。