「公正な価格」についての判断に回帰分析の手法を用いられた裁判例
株価算定事件について、昨年10月に参考となる裁判例がありましたので、ご紹介します。
インテリジェンス株式買取価格決定申立事件抗告審決定
平成22年10月19日東京高裁決定平成22年(ラ)第798号(金融・商事判例No.1354,14頁、 商事法務No.1921,57頁)
回帰分析の手法は、一般的に科学的根拠に基づく合理的手法であるというべきであるところ、本件におけるNERA意見書の回帰分析の手法を用いたジャスダック指数の変動率に基づく本件恒等式は抗告人株式価格の価格変動を予測するにつき高い信頼水準で統計的に有意であると認められるから、本件恒等式により補正された本件株式交換の効力発生日前の価格をもって算定することが、本件株式交換の計画公表前の一定期間の市場株式価格の平均値をもって算定することよりも、より高い合理性を備えるものというべきである。
そして、恒等式の変動係数を当てはめる市場インデックス、業界インデックス等(本件ではジャスダック指数の変動率)は、投機的思惑等一定の偶発的な要素の影響を受ける面もあるので、偶発的要素による影響を排除するためにも、株式交換の効力発生日前の一定期間の平均値をもって抗告人株式の有する基準時の客観的価値を判断するのが相当であるところ、審問の全趣旨によれば、本件における上記の期間としては、本件株式交換の効力発生日の前日からその前1か月間の平均値をもって算定した価格をもって、本件株式の「公正な価格」とするのが相当であると解される。
(引用終わり)
上場企業の株価算定の実務は、東京地方裁判所商事部を中心に、ある程度、定着しつつあるようにも感じます。とはいえ、本件は、第1審の東京地裁決定で「相手方が主張する回帰分析的手法を用いた算定を行うことは相当と認められず、相手方の上記主張は採用することができない。」と決定されていたものを、東京高裁により、第1審決定を変更して、回帰分析という手法に基づく変更(本件では、減額での変更)が認められたものです。
特別抗告・許可抗告中とのことですので、今後、最高裁決定により変更される可能性はあります。東京高裁が東京地裁商事部の決定等を変更した後、最高裁が東京地裁商事部の判断を支持するケースは、決して少なくありませんので、要注意です。