ベンチャー法務の部屋

売掛の管理と社長の仕事

今回は、ほとんどの人にとって、「何をいまさら」と思うであろう話をしたいと思います。

それは、中小企業やベンチャー企業においては、売上の管理は、社長の仕事ということです。

これは、多くの社長にとって、当たり前の話でしょう。なぜなら、かなりの数の中小企業やベンチャー企業では、社長が最大の営業マンであり、社長自身が、請求書や回収状況をチェックし、売掛先の状態の把握、顧客の性質や割合、割引の有無や内容、取引が生じることとなったきっかけ、売掛金回収期間、回収できなかった売掛の割合やその理由等を把握しているからです。

しかし、時折、社長が、営業や売掛の管理に関する業務について全くの人まかせという会社に出会います。社長が大企業の研究・開発部門出身である場合や、創業者の二代目である場合に、比較的多いように思います(勿論、そうでない方も多いです。)。以下の売掛にかかる業務について、どこまで把握しているでしょうか。

1 請求書の内容を把握しているか。
2 顧客リストをいつでも確認できる状態にあるか。
3 主な売上は、どの顧客、どの商品、サービスから生じたものであるか、その他の売掛に関する情報を把握できているか。
4 請求書の内容、契約の内容、会計上の処理が一致しているか。
5 不履行となったままの売掛は、どのように処理するか、対処方法が明確になっているか。
6 回収作業が放置されたままの未回収債権はないか。
7 不履行となった債権がある場合、その原因を分析し、契約締結時の業務にフィードバックできているか。

上の3つは、当たり前の業務です。創業から、かなり長い間、全ての請求書に社長が目を通している会社も少なくないでしょう。決して、社長が人任せにしてはならない業務の1つだと思います。

4は、特に、代理店契約等が絡んでいる場合に、生じがちです。代理店に仲介業務を依頼しているのか、卸をしているのかが異なると、法的な意味も、会計上の処理も全く異なります。しかし、意外と区別されていないことが少なくありません。代理店に仲介業務を依頼している場合は、最終顧客(代理店に紹介してもらい、契約することとなった顧客)との間に直接契約が成立しているはずです。法的責任(物を引き渡す責任や瑕疵担保責任等)も当該最終顧客に対し直接することになります。代理店には、仲介手数料のみが支払われるのが通常であり、お金の流れが代理店経由であっても、売上は、最終顧客との間で発生した売上が全額計上されるはずです。一方、代理店に物を卸している場合は、その代理店との間の契約しか成立せず、最終顧客との間で契約は成立しません(別途、保守契約や保証契約がある場合は、別です。)。この場合、卸価格が売上となるはずです。

5についても、決まっていないことが少なくないように感じます。特に、未回収の兆しがあれば、早め早めの行動が肝要です。早目に電話やファックス、メール等で、督促するのが基本であり、それでも支払われないようであれば、関連する資料を全て持参の上、弁護士等の専門家に依頼します。そして、回収の可能性を踏まえて、その金額、相手方の性質、会社の方針(コストに見合わない回収はしない、費用倒れになっても会社の評価の問題があるので徹底的に回収する等)等に応じて、最終的な処分方法を決めます。具体的には、内容証明郵便による請求、支払督促、訴訟提起、担保の実行等が考えられます。

6については、放置していることによる様々な問題を知る必要があります。税務上、未回収債権について費用化できず、税務上の負担が大きくなる点や、利益率を押し下げる点をよく理解しておく必要があるでしょう。利益率5%の会社での100万円の未回収は、さらに2000万円の売上に匹敵します。2000万円の売上確保の努力が100万円の未回収によって、不意になるのです。

7も重要です。未回収に陥ることを防ぐために、どうすればよいか、フィードバックする必要があります。もちろんビジネスモデル、特に入金のタイミングや方法によっても、大きく異なりますので、一概には言えません。常に、現金で回収できるコンビニエンスストアであれば、契約が成立したものの未回収となることはほとんどあり得ませんが、万引きを防ぐ手だてを講じることは重要でしょう。一方、webサイト構築業務等であれば、先に半額もらうことや、契約書又は契約書に準じるような書面やメールの取得等、証拠化の方法を考えるべきでしょう。契約書や発注書の見直し、担保取得の可能性、与信管理に応じた対応基準の策定、前金や作業途中での入金等の方法も検討するべきでしょう。

これらの内容は、冒頭で申し上げたように、ほとんどの人にとって、「何をいまさら」ではあると思いますが、会社経営にとっては非常に基本的であり、重要な内容です。また、既に、売掛の管理を励行されている社長や役員の皆様も、是非、見直すきっかけを作っていくと良いかと思います。

なお、実際に、売掛の未回収が生じた場合や、回収できない債権の額を減らしたい、契約書や契約締結の過程を見直したいという方は、当事務所か、企業法務に詳しい弁護士まで、ご相談ください。

執筆者
S&W国際法律事務所

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