労働者派遣事業と請負
多くの中小企業やベンチャー企業では、自社で雇用している従業員を、他社に派遣等して、対価を得ることがあります。IT企業や製造業、事務作業の受託、接客業等、多くの業態で見られます。
この場合、留意すべきことは、形式上(契約書上)、「請負」や「業務委託」(準委任)となっていたとしても、実態を踏まえると、労働者派遣事業に該当するのではないかという問題です。いわゆる「偽装請負」の問題と言われるものです。
実態は労働者派遣事業であるのにもかかわらず、請負という名目でなされていると、労働者派遣事業の許可又は届出が必要であり、労働者派遣法に基づく労働者派遣契約の締結等、同法の要請を満たすべきであったのに、許可又は届出がなされておらず、同法を遵守していないことが問題となります。
では、自社としては請負又は業務受託のつもりであるところ、労働者派遣事業と判断されないか否かを判断したいという場合、どうすればよいでしょうか。
以下のチェックポイントに、はい・いいえで答えてください。
・労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自社で行っている。
・労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自社で行っている。
・労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自社で行っている。
・労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自社で行っている。
・労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自社で行っている。
・労働者の配置等の決定及び変更を自社で行っている。
・業務の処理に要する資金につき、すべて自社の責任の下に調達し、かつ、支弁している。
・業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負っている。
・次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでない。
1. 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
2. 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
・労働者派遣法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものではなく、その事業の真の目的が労働者派遣を業として行うことではない。(「労働者派遣」とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものをいう。)
1つでも「いいえ」があると、労働者派遣事業に該当していると判断されてしまう可能性があります。
上記の判断基準は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年4月17日)(労働省告示第37号)を参考にして作成しました(原文では「自ら」となっているところ、読みやすさを優先し「自社で」「自社」に置き換えています。原文は個人事業主も想定しているため「自ら」という表現になっているものと考えます。)。詳しくは、厚生労働省のパンフレット「労働者派遣事業・請負を適正に行うために」(PDFはこちら )や「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準の具体化、明確化についての考え方」(PDFはこちら)をご確認ください。
これまで何の問題も無かったとか、同業他社が同じようにやっているということは、正当化の根拠にはなりません。また、ベンチャー企業で、将来、上場(IPO)や売却(Buyout)を考えている会社は、上記の判断基準を踏まえた上でビジネスモデルを構築するようお勧めします。