技術畑出身の社長が陥りがちな罠
ベンチャー企業の創立には、いくつかのパターンがあります。学生が始めたもの、社会人を辞めた人が始めたもの、優れた技術を持った人が始めたもの、営業が得意な人が始めたもの、代々の家業を発展させたもの、大企業からスピンアウトしたもの、ある程度の規模と事業計画を狙ってスタートしたもの、個人事業程度でやっているうちに大きくなったもの等です。私自身、少なくない数のベンチャー企業を見てきましたが、創業までの経緯は、実に様々です。今回は、その中で、大企業の技術畑の方が脱サラして起業したものの、伸び悩んでいるケースを取り上げてみたいと思います。
技術畑出身の方が創立した会社が陥りがちな問題(過ち)の最大のものは、「良いものをつくれば売れる」ということでしょう。仮に「良いものでなければ、売れない」という命題が真実であったとしても、それは「良いものをつくれば売れる」理由にはなりません。1つの例として考えられるのは、マクドナルドでしょう。この世に、マクドナルドのハンバーガーより美味しいハンバーガーをつくることができる人は、沢山いるでしょうけれども、マクドナルドより大きな飲食チェーンを築き上げることのできる人は、なかなかいないでしょう。
この問題は、少なくとも2つの点を解決する必要がありそうです。まず1つ目は、「良いもの」の「良い」の中身を吟味することでしょう。単に、すばらしいとか、美味しいとか、世界で初めてとか、環境によいとか、特許として登録されているということでは無いように思います。少なくとも、事業として継続し得るように「売れる」ことが必要です。当たり前といえば、当たり前です。しかし、現実には、「これは、ウチにしか提供できないものなんです。」といったフレーズを耳にするものの、誰が買いそうなのか、買い手には買う動機が本当にあるのかが、いまいち想像できないケースは少なくありません。ビジネスである以上、「良いもの」とは、それを買った人が出したお金以上の価値があったと感じることができ、且つそのように感じる人が多くおり、さらに自社に適正な利益を生み出すものといえるのではないでしょうか。(ただ、予め検討し、且つそれを実行するのは、言うは易く行うは難しであることは承知しています。)
もう1つの点は、その会社に、売る人やお金を調達する人等、「良いものを売る」ために必要な人材を確保することです。技術は重要であることは確かですが、会社の経営にとっては営業や財務も非常に重要です。いくら良いものをつくることができても、売れなければ意味がありません。この点、例えば、HONDAの本田宗一郎さんと藤沢武夫さんのコンビや、SONYの井深大さんと盛田昭夫さんのコンビは、互いを補うすばらしいチームだったのではないでしょうか。
もちろん、起業において失敗するケースの全ての原因がこの2つだけと申し上げるつもりはありません。ただ、この2つを遠因とするケースは、決して少なくないでしょう。技術畑出身の方が、起業を考えておられる場合、これらの観点も考慮していただければ、よい起業となる確率はぐんと上がるように思います。