ベンチャー法務の部屋

大企業によるベンチャー企業の買収


今月4日の新聞記事に、三菱重工、英ベンチャーを20億円で買収 大型風車の技術確保 というニュースがありました。

三菱重工業は3日、英国の油圧システム開発ベンチャーのアルテミス(エディンバラ市)を買収したと発表した。買収額は1500万ポンド(約20億円)。  三 菱重工は英国の洋上風車プロジェクトに参入するため、大型風車を開発中。アルテミスの大型風車に適した技術を取り入れ、開発を急ぐ。
(中略)
三菱重工は自前主義が強かったが、最近は経営スピードを速めるため、M&A(企業の合併・買収)にも意欲的な姿勢を見せている。
(引用終わり)(日本経済新聞2010/12/3 22:57配信)

さらに、5日には、韓国の大企業が日本の環境ベンチャーを買収したというニュースが配信されました。

国鉄鋼最大手のポスコは5日、日本の環境ベンチャーのゼネシス(東京・品川)を買収する契約を結んだと発表した。第三者割当増資を引き受け、ポスコと日本法人のポスコジャパンでゼネシス株の51%を保有する。海洋温度差発電や排熱発電の技術を持つ同社買収により、新エネルギー分野を将来の主力事業の一角とする足がかりを得る。
(引用終わり)(日本経済新聞 2010/12/5 19:55配信)

M&Aか、自社開発かという議論は、古くからある議論ではありますが、今でも、引き続き議論されて続けているテーマです。

新しい技術等を得るための方法としてのM&Aと自社開発のそれぞれの主な特徴は、以下の通りです。

M&A:時間がかからないことや既に成果や市場があることがメリットです。デメリットとしては、買収に伴うリスクがあります。特に、買収先のなかで入手したいものが特許権等の知的財産権で保護されていない場合は、買収先の主要な人物が辞めること等により買収した意味が実質的に果たされなくなってしまうことがあります。カルチャーの違いや給与体系の違いも問題化することがあります。

自社開発:すべてを自社でコントロールできるため、M&Aであれば必要な費用(デュー・ディリジェンスの費用等)や軋轢(カルチャー・給与体系の違い等)が発生しません。買収に伴うリスクもありません。知的財産権も自らが取得できます(特許の場合、規定の整備や相当な対価の支払が必要となります。)。一方、開発にお金をかけても成果が出ることが確実ではありません。また、いつ完成するか、成果がでるかわからず、時間がかかります。

大企業に買収されてもよいと考えるベンチャー企業は、できる限り早い段階から、(i) 特許権、商標権等、知的財産権にできるものは早めに知的財産権化する、(ii) 安定的な収入を確保する、(iii) いつ調査されてもよいように(デュー・ディリジェンスを受けてもよいように)、会計書類を整え、契約書や議事録(株主総会・取締役会)、株式の移動等は法的に問題がないようチェックし、整理しておくことが重要となります。

ベンチャー企業・中小企業の経営者の方におかれましては、今は誰かに買収されるということを考えていなかったとしても、上記(i)から(iii)までのポイントは、(一般論としても)重要な点ですので、頭の片隅においていただけると、良いかと思います。

執筆者
S&W国際法律事務所

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