商標の不使用取消審判における使用実績の詐欺
事業を進めるにおいて、商標権は、重要なポイントになります。
商標登録を受けずに、事業を継続していくと、第三者の商標権を侵害しているとして、その商標が使用できなくなる可能性が生じます。あまりブランド化を意識していない企業でも、費用はそれほど高くありませんので、早目に取得しておくことをお薦めします。
ところで、商標登録を受けるためには、商標を使用する意思が必要とされています。使いもしない商標が登録され、商標を自由に選ぶ自由を妨げられるのを防ぐためです。とはいえ、登録の審査の段階で、審査官が、その商標を使用する意思があるかないかを判断することは非常に難しいものです。
そこで、登録されているものの使用されていない商標の登録は、事後的に取消す制度として、不使用商標の取消審判の制度が設けられています。対象は、継続して3年以上使用されていない商標です。
この不使用商標の取消審判は、審判の相手方からすると、「わが社は、この商標を使っていましたよ。」と立証すれば、その商標登録は取り消せないという審決が下されることになります。申し立てる側からすると、相手方の使用状況をすべて調査するのはほとんど不可能ですから、現実的には、「いろいろ調べたが、多分、使っていないだろう」くらいの心証で、申し立てることになります。申し立てられた相手方は、何とか使用実績を立証するか、諦めるかしかありません。ただ、使用実績を立証する際に、事実に反するものを作成すると、偽造であり、商標法違反等に問われることになります。
『ビジネス法務 2011年1月号』9頁に、「商標登録存続に虚偽納品書、社長ら逮捕」と題する記事が掲載されています。
上の記事では、不使用商標の取消審判の中で、相手方(商標を使用していたと主張する側)が偽造した納品書を提出した事例が掲載されています。審判では「登録は取り消せない」という審決を受けたものの、その後、知財高裁で納品書が偽造であると認定されて、審決が取り消されたとのことです。この件に関連して、納品書を偽造した社長らが、商標法違反(詐欺の行為)で逮捕されたとのことです。
不使用商標の取消審判について、一部では、「相手方から使用していると主張・立証されてしまえば、なかなか反論できない(ので、申立ての実効性が低い)」という意見もありますが、本件のように逮捕に及ぶ例も出てきましたので、今後は、不使用商標の取消審判がより実効的なものになるかもしれません。なお、本記事では、逮捕された旨の記事であり、最終的に商標法違反等で起訴され有罪判決となったことが確認できたわけではありませんので、この点ご了承いただければ幸いです。