ベンチャー法務の部屋

ベンチャー企業と独占禁止法

昨日(11月10日)の日本経済新聞夕刊に、欧州委員会が、EU競争法(独占禁止法)違反で、日本航空を含む航空貨物12社が価格カルテルを結んでいたとして、ドイツのルフトハンザ航空を除く11社に約900億円!(日本航空は約40億円)の制裁金を課された旨の記事が掲載されていました。制裁の対象は、1キログラムあたりの燃油特別付加運賃を一律に設定するカルテルとのことです。

独占禁止法違反のペナルティーの大きさに改めて驚かされる記事です。また、日本でも導入されているリニエンシー(課徴金減免制度)によりルフトハンザ社1社が制裁金を免除されている点(日本では3~5社となる可能性がある。)も興味をひくところです。

ところで、独占禁止法は、カルテルや談合、市場占有率が高くなる合併等を取り扱っているため、大企業にしか関係なさそうな法律に思えます。しかし、中小企業やベンチャー企業であっても、独占禁止法が関連するケースがあります。

もちろん、市場でそれなりのシェアを占めている会社同士の企業結合であれば、中小企業であっても独占禁止法の対象となりますし、ほかのカルテルや談合も適用される可能性はあります。

ただ、ここでお伝えしたいのは、現実に中小企業やベンチャー企業が気にすべき場合が多いと予想される「不公正な取引方法」です。

不公正な取引方法とは、独占禁止法第19条で禁止されている行為です。

独占禁止法

第19条
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

第20条第1項
前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。


不公正な取引方法については、公正取引委員会が告示によってその内容を指定していますが、この指定には、すべての業種に適用される「一般指定」と、特定の事業者・業界を対象とする「特殊指定」があります。一般指定で挙げられた不公正な取引方法には、取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引、再販売価格維持行為、優越的地位の濫用、欺瞞的顧客誘引、不当廉売などがあります。

たとえば、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」では、「役務の委託取引においても、委託者と受託者がどのような条件で取引するかは、基本的にはそれぞれの自主的な判断にゆだねられるものであるが、委託者が受託者に対し取引上優越した地位にある場合において、その地位を利用して、受託者に対し、代金の支払遅延、代金の減額要請、著しく低い対価での取引の要請、やり直しの要請、協賛金等の負担の要請、商品等の購入要請又は役務の成果物に係る権利等の一方的な取扱いを行う場合には、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。」としており、ソフトウェア開発のベンチャー企業が受託者側の場合は、不合理な契約内容を締結させられている場合に独占禁止法を交渉等で利用できる可能性がありますし、逆に、委託者側でこういった内容の契約を締結していれば、不公正な取引方法として、排除措置命令等の対象になる可能性があります。

また、「メーカーが流通業者に対して、自社商品のみの取扱いを義務付けること」「メーカーが流通業者に対して、競争者の商品の取扱いを制限すること」といったことも制約を受けます(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」)。

バイオベンチャー企業等の研究開発系のベンチャー企業や大学発ベンチャーでよく見られる共同研究開発に関する契約等についても、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」というものがありますので、自社の交渉力が低いと思われるケースや理不尽な内容の契約内容と思われる場合は、独占禁止法が利用できないか検討してみる余地はあるかもしれません。

具体的な事例については、こちらの公正取引委員会のページをご参照ください。

中小企業・ベンチャー企業であっても、取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持行為,優越的地位の濫用といったあたりは、する側の立場もされる側の立場も、どちらもあり得ますので、契約の条文の中に該当するものがあるかもしれない場合や、被害にあっているかもしれないといった場合には、一度、弁護士に相談してみてください。

執筆者
S&W国際法律事務所

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