ベンチャー法務の部屋

中小企業・ベンチャー企業とウィーン売買条約

昨日、大阪弁護士会で、ウィーン売買条約についての研修がありました。

ウィーン売買条約は、昨年8月に日本でも発効し、日本法を準拠法とする国際物品売買にも適用されることになりました。厳密な適用範囲については、同条約第1章をご参照ください。また、加盟国と加盟時期については、UNCITALのページを確認してください。

現在、単に日本法を準拠法と記載した国際物品売買契約については、日本の民法に優先してウィーン売買条約が適用されることになります。例えば、中国の会社が売主で、日本の会社が買主の場合、物品の売買契約書において準拠法を日本と規定した場合であっても、契約書を作成しなかった場合であっても、ウィーン売買条約が適用されます。非加盟国の会社が売主の場合は、法の適用に関する通則法第8条第2項により、非加盟国の現地法が適用される可能性が高いとのことでした(この場合は、契約書で準拠法を変更するか、ウィーン売買条約が適用される旨を明記した方がコスト的に有利な可能性があります。)。

昨日の研修では、日本の大手法律事務所では、このウィーン売買条約の適用を排除しておくことが現時点での「ベストプラクティス」(諸リスクを勘案した場合のベターな選択?)という興味深い議論がありました。

おそらく、「将来、問題が生じた場合に、日本の法律家が日本法によって対応するのであれば適切な解が得られる可能性が高く、また紛争の相手方との間で共通の認識を持てるであろうが、ウィーン売買条約について適切なアドバイスを受けられる可能性は低く、その解釈でまず揉める可能性があるのではないか」というリスクが最初にあるのだろうと思います。

ただ、そのほかにも、現実的なリスクもあるように思われます。齋藤教授の論文等(※1)を拝見すると、売主に不利になる可能性があるものとして、同条約の第35条(物品の適合性)やクレーム提起期間が「物品の引渡しから2年間」とされている点(同条約第39条第2項)があり、買主に不利になる可能性があるものとして、検査通知義務にかかる第38条・第39条等があるようです。危険の移転時期も日本法は売主サイドの規定になっていますが、ウィーン売買条約は日本法よりは多少買主サイドになっているように思われます(それでも比較法的には売主寄りと評価されそうです。)。

一方、同条約の使い勝手のよさそうな規定としては、不安の抗弁権を明記した同条約第71条、第72条が挙げられそうです。

これらのデメリットとメリットを勘案した上で、且つ同条約の判例の集積や文献が少ないことから、現実的には、(弁護士等が契約書を作成するのであれば)同条約を明示で排除する流れが続きそうです。

とはいえ、いくつかのケース、例えば、契約書が無い場合、単に準拠法が日本法とされている場合(但し発効以前のものからの継続的売買契約に対する適用については議論があります。)、契約締結時に準拠法での中立を目指した等の結果ウィーン売買条約が第一義的に適用されることとなった場合等では、今後、交渉の前提及び日本の裁判所等で、ウィーン売買条約が表に出てくることがあり得ます。

昨今は、中小企業のみならず、ベンチャー企業でも、国際取引は決して珍しいものではありません。物品の売買をするケースも少なくありません。国際的な貿易をする会社の役員及び実務担当者や法律家は、ウィーン売買条約の適用の可能性を常に頭の片隅においておくべきでしょう。

※1 参考文献:齋藤彰著「ウィーン売買条約と日本 ―日本の法律家が国際統一私法と正しく向き合うために」(『国際商取引学会年報2010 vol.12』  212頁~)

執筆者
S&W国際法律事務所

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