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不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法第405条の適用または類推適用により元本に組み入れることの可否(最高裁判所判決令和4年1月18日/金融・商事判例1649号29頁)

2022.10.31
S&W国際法律事務所

【事案の概要】

Y1社は、平成25年3月、その代表取締役Y2に募集株式を割り当ててこれを発行した(以下「本件新株発行」という。)。

本件新株発行は、Y2が主導して、専らXをY1社から排除する目的で行われたものであり、Xが保有していたY1社の株式の価値を著しく毀損するものであった。

Xは、平成27年3月、本件新株発行が違法であるとして、Yらに対し、不法行為に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めて本件訴訟を提起し、その訴状は、同年4月、Yらにそれぞれ送達された。

Xは、平成27年6月25日、Yらに対し、民法405条に基づき、上記の損害賠償債務について同日までに発生した遅延損害金を元本に組み入れる旨の意思表示をした。

本判決における争点は、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法405条は適用又は類推適用により元本に組み入れることはできるか否かである。

【判決の要旨】

民法第405条は、いわゆる重利の特約がされていない場合においても、一定の要件の下に、債権者の一方的な意思表示により利息を元本に組み入れることができるものとしている。

これは、債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず、その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば、債権者は、利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから、利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。

そして、遅延損害金であっても、貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては、その性質等に照らし、上記の趣旨が当てはまるということができる。

これに対し、不法行為に基づく損害賠償債務は、貸金債務とは異なり、債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから、債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって、一概に債務者を責めることはできない。

また、不法行為に基づく損害賠償債務については、何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており、上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。

そうすると、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については、民法第405条の上記趣旨は妥当しないというべきである。

したがって、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は、民法第405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。

【コメント】

本判決は、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金に対する民法第405条の適用又は類推適用の可否について、否定する判断をしました。

これまで、この論点に関する最高裁判決はなく、下級審裁判例においても、肯定例と否定例に分かれていたことから、重要な意義を有する判決であると考えます。 また、本判決は、結論を導く理由として、民法第405条の趣旨を述べていることから、本判決とは事案を異にする債務不履行に基づく損害賠償債務の場合についても、その解決の参考になるものと考えます。

【参考条文】

民法 第405条 (利息の元本への組入れ)

利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。

(文責:福本 洸太郎)

執筆者
福本 洸太郎
アソシエイト/弁護士

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