企業の法務部門の役割(2)
「企業の法務部門の役割(1)」の続きです。
今回は、特に外部に相談した方がよいケースを掘り下げて考えてみます。
(6) 知的財産権が関連している場合
多くのIT企業がシステム等を内部で作るか、外注するかという判断をすることがあります。知的財産権の帰属が関係する開発委託契約は、その製作の過程で生じた知的財産権の帰属について予め明確にしておいた方がよいです。特に重要なシステムを外注する場合は、重要です。また、受託する場合も同様です。
ビジネスモデルが特許と深くかかわっているケース、特に産学連携や大学発ベンチャーの場合や研究開発が中心の会社の場合、特許権が誰に帰属するかという問題は重要です。共同開発契約において、特許権の帰属は重要となりますので、運用・管理の方法も含めて、外部の法律の専門家に相談しておいた方が安全です。
(7) ネットを通じて不特定多数と取引する場合
まず、本人確認をした上で、その後の本人に有効に効果帰属させる必要があります。また、各項目について消費者契約法等を踏まえ、有効な内容としておく必要があります。少なくとも電子商取引に関する準則に準拠した内容にしておく必要があります。
(8) 下請法等の法律により契約書を作成することが義務付けられている場合
外注するケースで下請事業者の方が規模が小さいケースでは、下請法が適用される場合(公正取引委員会のHPhttp://www.jftc.go.jp/sitauke/index.html参照)があります。昨今問題になるのは、個人のシステム・エンジニアに業務委託する場合にこの法律が適用される可能性がある場合がありますので、要注意です。
(9) 広義の資本取引
資本取引については、会社法上の有効性や税務上のリスクを検討した上で、金融商品取引法で有価証券届出書の提出が必要とならないようにすること等が必要となります。また、登記が必要となることがほとんどです。新株予約権の発行や種類株式の発行の場面では、登記申請まで併せて弁護士に依頼するケースも多いです。
(10) 将来の開示書類に、「重要な契約」として記載することとなる可能性が高い場合
上場企業の有価証券報告書をご覧いただければわかるとおり、開示書類には、【経営上の重要な契約等】として、重要な契約を列挙し、概要を記載します。具体的にどのような契約を定めるべきかは、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)というものに規定されていますが、およそ「事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の経営上の重要な契約」は、対象となります(他にも対象となる契約はあります)。
したがって、概要が開示されることを前提に、契約期間や解除条件を含めて、契約文言を詰めておく必要があります。
さらに、(契約書の有無にかかわらず)契約の締結自体が何らかの法律に反する可能性があることもあります。こればかりは、その法律を知らないと、そもそも危ないかどうかすら気づきませんので、当然、外部に相談するというオプションも採ることができません。したがって、ベンチャー企業・中小企業の役員の方々に、その感度を磨いていただく必要があります。そして、危ないかもと思ったら、すぐに弁護士に相談してください。法律相談だけであればリーガル・コストはほとんどかかりません。
よく法律に抵触しがち(で見落とされがち)なパターンとして思いつくあたりとしては、健康関連の表記→薬事法、お金を集める→出資法、法律事件処理・債権回収→弁護士法、規模の小さい事業者(個人のシステム・エンジニア等)への外注→下請法、有価証券の取引の仲介→金融商品取引法、マーケティングに懸賞を利用→景品表示法等です。これらの場合は、最悪のケースでは刑事罰が科せられることになりますので、これらの事業をする場合には、日頃から意識を高めておく必要があります。
他にも、ファイナンスもどきの循環取引等の会計的に危険な取引もありますので、外部の専門家と都度気軽に相談できる体制を保持しておくことは中小企業・ベンチャー企業の経営者にとっては重要です。