DeNA社による米国のゲーム開発会社の買収
先日のエントリーで少し取り上げさせていただいた南場智子社長が経営するDeNA社が米国のゲーム会社であるNgmoco社を買収したというニュースがありました。DeNA社は、先月も米国企業の買収や資本提携を発表しており、その世界戦略が本気であることをうかがわせます。
米国ngmoco社の買収について ~世界No.1のソーシャルゲームプラットフォームの構築を加速~ (DeNA社 プレスリリース)
DeNA、米ゲーム開発会社を買収 最大342億円で (日本経済新聞)
Japanese company DeNA buys iPhone game developer Ngmoco for $400 million (Los Angels Times)
ディー・エヌ・エーのngmocoの買収は本当だった――買収額は最大で4.03億ドル (Tech Crunch Japan)
DeNAのNgmoco買収でベンチャーキャピタルのKleiner Perkinsには1億ドルの利益 (Tech Crunch Japan)
Kleiner Perkins Harvests Over $100 Million From Ngmoco Acquisition (原文)
このニュースが注目されているのは、その買収金額($403M)の大きさと、日本の会社が米国のstart-up企業を買収したという珍しさにあると思います。ただ、米国のベンチャー企業のExitとして、日本企業からの買収というのは、従来あまり想定されていなかったと思いますが、そもそも買収してくれるのであれば、米国も日本もないというのが、シリコンバレーのスタイルではないかと思います。
今回のディールのプレスリリース「米国ngmoco 社の買収、第三者割当による新株式発行及び新株予約権発行に関するお知らせ」 (PDFファイル)や「米国「ngmoco社」 買収合意について」 (PDFファイル) を拝見させていただくと、そのスキームは、新株予約権発行、子会社設立、三角合併、合併を組み合わせたものであることがわかります。また、買収金額$403M(1ドル85円の換算で、約342億円)の中身ですが、全てが現金ではなく、株式や新株予約権が含まれていることや、一部($100M)は、Ngmoco社の業績に応じて支払われるインセンティブ報酬(アーンアウト対価)であることもわかります。以下は、同社の資料による対価の内容です。
■クロージング(買収実行)時合計3.03億米ドル(約257億円)
普通株式1.46億米ドル(約124億円)
新株予約権0.27億米ドル(約23億円)
現金1.28億米ドル(約109億円)
■アーンアウト(業績連動型) 合計最大1.00億米ドル(約85億円)相当
普通株式0.31億米ドル(約26億円)相当
新株予約権0.12億米ドル(約10億円)相当
現金0.56億米ドル(約48億円)
2010年の9月30日現在のDeNA社の発行済み株式数は1億4589万株であり、今回の第三者割当増資による新株式発行5,006,210株に、新株予約権の行使により交付される普通株式及びアーンアウト対価として交付される普通株式(合計、最大で2,888,070株)を加えても789万株であり、5%強の希薄化度合いということになります(資料によると、アーンアウト対価も含めると、本件買収総合計で最大5.4%(議決権ベース5.5%))。本日、同社の株式の希薄化が懸念されたため株価が下落した旨の報道がありましたが、希薄化の程度は想像よりは大きくないという印象でしょうか。発表後のDeNA社の時価総額でも3190億円(10月13日現在 前日比-7.75%)であることを考えると、それなりに納得できる数字かもしれません。
円高や手持ち現金の多さ(2010年8月31日現在、現預金は342億円)が間接的な条件となった可能性はあると思います。
おそらく日本の投資家が衝撃を受けた理由は、Ngmoco社の直近2009年12月期の決算では、連結売上高が$3,156,000(約2億6800円)、連結営業赤字が$10.886,000(約9億2500円)とのことであり(但し、Ngmoco社の直近2009年12月期の連結純資産は、$26,711,000(約22億7000円)。)、いくらシナジー効果があるといっても、対価が高すぎるのではないかといった懸念にあるのかと思われます。
この点は、私には、全く判断できないところですが、インターネット業界はスピードが極めて重要であり、その中で、「M&Aによって時間を買う」という動機と、「1位の企業が多くの富を得る」というIT業界の特徴が背景にあるのではないかと推察いたします。
なお、上記の最後の記事にあるように、シリコンバレーの有力なベンチャー・キャピタルであるKleiner Perkins Caufield & Byersは、今回のディールで、少なくとも投資金額の7.5倍の金額($10M→$75M+α)を得ることとなったようで、Ngmoco社の株主側から見た場合、今回のディール・投資は成功といえるでしょう。日本のスタートアップ企業でも、このようなダイナミックな動きがどんどんあると、ベンチャー企業の生態系が活性化して、面白いのではないでしょうか。