【随想】スタートアップ企業から相談を受けるときに想うこと
スタートアップ企業から相談対応を専業としている弁護士として、相談を受けるときに意識していることがいくつかあります。
1つは、相談者への回答内容が、経営者の意思決定に有用であることです。
私たちは、私たちからの回答が「なるほど。Aという決断をすれば、Xというリスクがあり、Bという決断をすればそのリスクがない代わりに、Aのメリットが得られないのだな」「であれば、今回は、Xというリスクは許容するのでAという決断をしよう」といった経営判断が可能なように、有用な回答を提供しようと努めています。回答を受け取った方が、「なんだか難しいなぁ。」「で、どうすればよいか、イマイチよくわからないなぁ」ということにならないようにしたいと考えています。
ただ、このように有用な回答を行うというのは、言うは易く行うは難いものです。
特に、経営判断においては、他の経営的な要素が強く関係しますので、必要な材料を提供するには、十分なコミュニケーションが必要です。しかも、私たちが把握した法的リスクの程度を、平易な日本語で且つ誤解の生じない形で表現しなければなりません。
実際には、メールで回答しつつ、口頭で補足するということも、少なくありません。
もう1つ意識していることは、Aという方策が検討されている場合に、よりリスク回避的で同程度の効果が実現できる施策はないか、という点に考えを巡らせるようにしている点です。
スタートアップ企業と取引先において、何らかの揉め事がある場合に、その揉め事を正面から解決することが有用な場合もありますが、揉め事を何らかの方法で回避又は終了させつつ、別の方策で揉め事解決と同様の状態を実現するということがないか、常に考えています。ここで具体的な揉め事に触れることは難しいのですが、例えば退職者の株式の株式譲渡や株価算定で争いがある場合に、スタートアップ企業が実現したい状態に持っていくには、「その退職者との交渉」以外の解決策が見つかる場合があります。そういった全くの別ルートが発見できないか、日々頭を巡らせているのです。
スタートアップ企業は、常に「挑戦」しています。
そして、その「挑戦」には、常に不明確さが伴います。私たちの仕事の1つは、その不明確さ=リスクに見合った挑戦であるのか、そのリスクをできる限り回避することを念頭に置きつつも、まずはスタートアップ企業の経営者や担当者にとってリスクを正確に把握できる状態にすることではないかと考えています。