令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正のうち、 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合の改正点の解説
1 はじめに
今月(2020年11月)20日、令和元年会社法改正の施行日が公布されました。
令和3年3月1日です。
この令和元年会社法改正は、おおむね以下の事項を定めています。いくつかの新制度の制定があり、それなりに大きな改正です。
(1) 株主総会資料の電子提供制度の創設
(2) 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
(3) 取締役の報酬に関する規律の見直し
(4) 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備
(5) 社外取締役の活用等
(6) 社債の管理に関する規律の見直し
(7) 株式交付制度の創設
(8) その他(①募集新株予約権について募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないことと、②成年被後見人等についての取締役等の欠格条項を削除、③会社の支店の所在地における登記の廃止、等)
このうち、今回は、「 取締役の報酬に関する規律の見直し 」のうち、「取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこと」について、解説します。
概要は、「取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設けることとしています」というものです(令和元年12月11日付け(令和2年9月1日更新)法務省民事局 「会社法の一部を改正する法律について」)。
2 現行会社法における取締役への新株予約権の付与と取締役報酬規制
以前、「いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か」というエントリーを当ブログに上げました。
現行(令和3年2月末日まで)の会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないとのみ規定されています(会社法第361条第1項)。
現行の会社法では、会社法の取締役の報酬に関する規律との関係で、取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合に、 具体的な算定方法、又は内容について、株主総会でどのように決議すべきかは、必ずしも会社法上明確ではありません。また、 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合にも、会社法361条にいう「報酬等」に該当するかどうか、はっきりせず、報酬決議が必要か否かも明確ではありませんでした。
3 ベンチャー企業の取締役にストックオプション(新株予約権)を付与する場合における、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後の取締役報酬規制
令和元年会社法改正の第361条第1項では、 「報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項」(第4号)や「 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該 イ又はロに定める事項」「 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項 」(第5号ロ)を株主総会で決議すれば、足りることが明確になりました。
したがって、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後は、
【取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】は
「報酬等」に該当するものとして、
改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。 【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
「報酬等」に該当するものとして、
それぞれ改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。
また、【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
事実上有償部分の対価(払込金額)を役員に交付する場合は、「報酬等」に該当するものとして、改正後の会社法第361条第1項第4号又は第5号に基づき、ストックオプションの内容を決議した方がよい場面がでてくる可能性があると考えます。
(★ この内容は、2021年1月8日に変更しております。)
決議すべき事項は、以下のとおりです。
① 当該募集新株予約権の数の上限
② 当該新株予約権の目的である株式の数 (種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 又はその算定方法
③ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
④ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
⑤ 当該新株予約権を行使することができる期間
⑥ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
⑦ 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
⑧ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
⑨ 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236条第1項第7号イからチに掲げる事項(いわゆる取得条項の内容)
⑩ 当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
会社法第236条第1項の事項の他、行使資格や行使条件を明確にする必要があり、結局のところ、新株予約権の要項と割当契約書を別紙で添付して、報酬等の内容として決議することになるものと考えられます。
4 留意事項
会社法改正施行前、要するに令和3年2月末日までに、株式やストックオプション(新株予約権)の授権枠の決議のみを株主総会で行い、取締役等への具体的な割当決議を施行後、すなわち令和3年3月1日以後に行う場合は、改めて株主総会で報酬決議を要するか否かについては、確認が必要であるため、弁護士にお問い合わせください。
また、RSU等の事後交付型株式報酬等は、個別に検討を要しますので、こちらも弁護士にお問い合わせください。
なお、 会社法改正施行前であっても、役員報酬決議に際して、改定後の決定事項を網羅した形で、役員報酬決議を取得しておくことは、会社法上、問題がないと考えられますので、今から取締役等にストックオプションを付与する場合は、是非、株主総会にて、 改定後の決定事項を網羅した形で役員報酬決議も同時に行っていただく方法がよいと考えます。
5 参考
参考までに、改正後の会社法第361条第1項第4号から第6項、施行規則第112条の2を掲載します。
会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)
(取締役の報酬等)
第361条第1項
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
(中略:1号~3号)
四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
イ 当該株式会社の募集株式取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
ロ 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
六 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
会社法施行規則
第98条の3
法第三百六十一条第一項第四号に規定する法務省令で定める事項は、同号の募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。
一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要
六 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(取締役の報酬等のうち株式等と引換えにする払込みに充てるための金銭について定めるべき事項)
第98条の4
法第三百六十一条第一項第五号イに規定する法務省令で定める事項は、同号イの募集株式に係る次に掲げる事項とする。
一 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
二 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
三 前二号に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
2 法第三百六十一条第一項第五号ロに規定する法務省令で定める事項は、同号ロの募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。
一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要
六 取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
文責:森 理俊