公益通報者保護法の改正について
令和2年6月8日、公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立し、同月12日に公布されました。この法律は、公布の日から2年以内に施行されます。
本改正により、企業においては、内部通報制度の構築や、すでに構築済みの内部通報制度のアップデートが必要となる可能性がありますので、法及び改正の概要について、以下で解説します。
1.公益通報者保護法の概要
(1)適用例
ある会社の従業員であるAは、偶然、自社の商品が、食品衛生法の定める基準を満たさないまま販売されていることを知りました。Aは慌てて、勤務先が社内に設けている通報窓口に、その内容を伝えたのですが、直後、会社から解雇処分を言い渡されてしまいました。
このような場面において、Aの解雇処分は無効であることを定めるのが、公益通報者保護法です。すなわち、この法律は、「公益通報」を行った労働者が、公益通報を行ったことを理由とした解雇等の「不利益な取扱い」を受けることを禁止しています。
(2)公益通報とは
公益通報とは、①労働者が、②労務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。
このうち、④通報先としては、勤務先や社内ヘルプラインのほか、一定の行政機関、報道機関、労働組合等が想定されています(なお、通報事実の根拠資料の有無等により、通報可能な範囲は異なります。)。
(3)不利益な取扱いとは
労働者が、(2)記載の公益通報をした場合、公益通報をしたことを理由とする解雇は無効です。また、降格や減給、退職の強要等、解雇以外の不利益な取扱いをすることも禁止されています。
2.今回の改正の概要
(1)事業者がとるべき措置
従業員数が300人以上の事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定等)が義務付けられました。また、これに違反する事業者に対しては、公表を含む行政措置が導入されています。
従業員数が300人以下の中小事業者については、必要な体制の整備等は努力義務とされますが、実効性確保のための行政措置は、中小事業者も対象とされています。
加えて、公益通報対応業務従事者に対し、通報者を特定する情報の守秘義務が規定されました。同義務違反は、30万円以下の罰金となります。
(2)保護対象の拡大
通報者として、労働者に加え、退職後1年以内の退職者、及び役員が追加されました。
また、通報対象事実に過料の理由とされる事実が追加されたほか、事業者が公益通報によって損害を受けたことを理由とする通報者の損害賠償責任が免除されました。
(3)行政機関・報道機関等への通報条件の緩和
現行法では、行政機関へ通報を行うためには、通報対象事実の相当の根拠が必要とされていたり、報道機関等へ通報を行うためには、個人の生命または身体に危害が発生していること等が必要とされていたりしましたが、本改正により、これらの要件が一部緩和されました。
3.コメント
以上見てきたとおり、本改正は、公益通報により企業不祥事が明るみに出ることが、国民生活の安心・安全を守り、また企業の自浄作用を促進するとして、労働者が公益通報を行いやすくすることを主な目的として行われました。
企業にとっては、本改正を踏まえて、内部通報制度の構築が必須となる可能性があります。すなわち、一部の事業者については体制整備等が義務付けられたことに加え、外部への通報のハードルが下げられたため、充実した内部通報制度の整備や社内への周知がなければ、不祥事が容易に外部へ告発されてしまう事態も想定されます。通報者の匿名性の確保についても、事前の検討が必要です。
また、すでに内部通報制度を整備している企業であっても、本改正を踏まえ、関係規程等を再度見直す必要があります。
当事務所においては、内部通報対応業務、内部通報に関する諸規定の作成や見直しについて取り扱っています。内部通報制度の構築についてご検討の場合は、https://www.swlaw.jp/contact/ にお問い合わせください。
(文責:和田眞悠子)