スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗 その1 ~株式関連編~
1 スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗
Twitterをみていると、「スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗」というテーマでの投稿がありました。
今回、私も経験から、スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗を、お伝えします。
シード期は、まずサービスをローンチすることや、売上を上げること、ユーザーを増やすこと、資金を調達すること、人材を集めることに、集中しますので、法務は疎かになりがちです。法務に避けられる予算にも限りがあります。サービスが始まらないのに、法務も何もないというのが、正直なところでしょう。
そこで、シード期の法務は、ひとまず、失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いものを、主として留意することをお勧めします。
「失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いもの」とは、何か。
ずばり、株式関連と、知的財産権です。
2 株式関連で気をつけるべき点
シード期に株式関連で気を付けるべき点は、
① 創業者間のシェアと離脱時の約束
② 初期の第三者割当増資のシェアや株価
③ ストックオプションの割当個数
④ 投資契約や株主間契約、種類株式の不利な条件
⑤ 株主名簿の管理
あたりです。
① 創業者間のシェアは、1/2ずつや1/3ずつにしないことが原則です。まず、最終的に意思決定できないシェア割は避けるべきです。また、意見が割れたときに、2:1となり、少数派が生まれる三頭政治のような体制も経験上失敗事例が多いです。
基本的には、中心となっている人物(起業を志した者など)がマジョリティを有して、できれば、IPOより前までの資金調達を経た後でも、過半数を維持できる程度は、あった方が良いでしょう。
また、株式を保有する主要メンバーが、後から何らかの理由で離脱することは、あり得ます。その場合に、離脱者が株式全部を保有し続けることは、良くありません。離脱後の株主価値の上昇分にフリーランチすることになりますし、実務上、社外の、株主総会招集通知の送り先が1つ増え、さらに、議決権の行使の予想が不安定にもなります。加えて、M&Aの際には、反対株主として株式取得請求権を行使されるかもしれません。
そこで、創業者間でも、株主間契約を締結し、離脱時の譲渡の約束や、強制売却義務を、設定することがオススメです。昨今では、創業者間株主間契約を、定めることが増えてきたと実感します。
② 初期の第三者割当増資は、シェアを出しすぎないこと、株価を適正にすることが大原則です。株価は、低すぎても駄目ですが、高すぎても、次のファイナンスに悪影響を及ぼすことがあります。
③ ストックオプションも同じで、初期に出しすぎると、後から入ってくる有用な人材に、十分な量を用意できないということがあります。
④ 投資契約、株主間契約、種類株式の内容には、要注意です。特に、事前承諾事項や種類株主総会決議事項のほか、金銭を対価とする取得請求権などは、慎重に検討を要します。他にも、表明保証条項の内容や株式買取請求権の条件など、理解できない場合や、相場感がわからない場合、納得できない場合、どのような影響がでるか予想できない場合には、応じるべきではありません。
⑤ 株主名簿は、よくエクセルで、現在の個数のみを記載して管理されている例をみかけます。しかしながら、会社法上、株主名簿は、(i) 株主の氏名又は名称及び住所、(ii) 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、(iii) 第一号の株主が株式を取得した日、(Iv) 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号、を記載しなければなりません(会社法121条)。
私の経験上、(i)株主の住所と、(iii)株主が株式を取得した日の記載がないものが、散見されます。株主ごとに、いつ、どのような理由で、誰から何株を取得したのか、を明記した方がよいでしょう。具外的には、備考欄に、「●年●月●日 第三者割当増資●株取得」「●年●月●日 ●氏から株式譲渡により●株取得」などと記載して、現在の合計株数とは別に、その来歴をすべて記載するようにしましょう。
次回は、知的財産権で気をつけるべき点をお伝えします。
文責 森理俊