ベンチャー法務の部屋

定型約款に関する民法改正(3)

2018.03.20

これまで2回にわたって定型約款に関する民法改正について紹介してきました。今回が最終回になります。

 

1 定型約款の内容の表示(第548条の3)

 

前回紹介したように、改正民法は、第548条の2第1項で、定型約款が契約内容となるための要件として、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、②定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき、と規定しています。このように、改正民法は、原則として定型約款を契約内容とするための要件として、定型約款の内容の開示を求めていません。

もっとも、定型約款を用いた取引を行う場合、定型約款を示される相手方としては、契約の内容となる約款の内容を知っておかなければ不安であることから、実務上は、契約前に約款の内容が示されることが通常であると考えられます。

改正民法第548条の3は、この約款内容の開示に関し、(1)定型約款準備者から約款の内容について任意の開示がされていない場合に開示を求めることができるのか、(2)定型取引合意前に約款の内容が開示されなかった場合にまで定型約款が契約内容となるのか、といった点について定めた規定です。

 

(1)について

まず、第548条の3は、第1項で、定型約款準備者の相手方に対する定型約款の内容に関する開示義務を定めています。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、改めて開示する必要はありません。

 

(2)について

次に、同条第2項は、「定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。」として、定型約款準備者が契約締結前に正当な理由なく第1項の開示請求を拒んだ場合には、定型約款は契約内容とならない旨定めています。

また、同じく定型約款準備者が第1項に定める開示義務に違反した場合には、相手方に対し、それによって被った損害の賠償義務を負うことになります。

 

なお、本条に定める開示をもって、重要な約款事項について信義則上の情報提供義務・説明義務を果たしたことにはならない点には注意が必要です。

 

本条第2項で、開示義務に違反した場合には定型約款が契約内容とならないとされていること、また、開示義務に違反したことによる損害賠償義務を負いうること、さらに、第548条の2の第1項第2号において、予め定型約款の内容を開示していたときには定型約款が契約内容となるとみなされることに照らせば、実務的には事前に定型約款を契約の内容とする旨を相手方に示すとともに、定型約款の内容を記載した書面等を相手方に交付しておくべきであると考えられます(第一東京弁護士会 司法制度調査委員会編 「改正債権法の逐条解説」262頁参照)。

 

2 定型約款の変更

 

定型約款により契約が成立した後に内容を変更する必要が生じた場合について定めているのが第548条の4です。

 

本来、一度成立した契約の内容を変更するためには、相手方の同意が必要であるのが原則です。もっとも、定款取引は不特定多数の相手方を対象としていることが多く、個別の同意を得ることは現実的に不可能です。

 

この点について、約款変更の要件に関する明確な規定や運用が定まっていなかったため、改正民法第548条の4は、(1)定型約款に基づく契約を締結した後に定型約款準備者が約款の内容を変更するための要件、(2)その際の手続等について明らかにする規定になっています。

 

(1)約款変更の要件について

①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき

②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

には、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなされます。

 

②の要件を満たすか否かの判断の際の考慮要素として挙げられている事情についてはあくまで例示列挙であり、これ以外にも、例えば、相手方に解除権の付与など、相手方が被る不利益を軽減する措置が講じられているか否かといった事情も考慮要素となります。

 

なお、[定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めがあること]については、約款変更のための要件ではありませんが、これも上記考慮要素の一つとされていることから、定型約款を作成する際には、定型約款中に、「定款を変更することができる」旨の定めを置くことをおすすめします。

 

(2)約款変更の際の手続について

本条2項では、定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、

①約款変更の効力発生時期を定め、かつ

②定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知する

必要があります。

 

本条3項では、(1)②の方法による変更の場合、すなわち、定型約款の変更が相手方の利益に適合するという判断に基づく場合ではなく、合理性の基準を満たすという判断に基づく場合については、効力発生時期までに上記周知をしなければ変更の効力を生じないとされています。

 

なお、周知→効力発生という手続を踏まなければならないことは規定されているものの、周知から効力発生までにどの程度の時間を置けばよいのかについては具体的に定められていません。この点については、周知という手続が、定款の変更によって不利益を受ける相手方を保護するための手続である以上、不利益への対抗措置を講じるのに十分な時間か否かが判断基準とされると考えられます。

 

最後に、本条4項においては、第548条の2第2項のみなし合意除外規定を適用しない旨確認的に規定されています。これは、定型約款変更の有効性に関する本条1項1号及び2号における判断は、第548条の2第2項の判断よりも慎重かつ厳格に行われるものであることを理由とするものです。

 

3 改正民法施行日前の契約について

改正民法施行日以後の定型取引については、改正民法が適用されます。

この点、附則第33条第1項本文は、改正民法の施行日前に締結された定型取引にかかる契約についても、定型約款に関する改正民法の規定が適用される旨定めています。ただし、附則第33条第1項ただし書は、旧法の規定によって生じた効力を妨げないと規定していることから、旧法のもとで有効なものとされていた約款条項が改正民法の定型約款に関する規定によって無効なものとされることはありません。また、施行日前に、相手方から反対の意思が書面・電磁的記録によって示された場合には、附則第33条第1項は適用されません(附則第33条第2項、第3項)。

 

以上

執筆者
S&W国際法律事務所

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