知的財産権を譲渡するために必要な手続きとは~著作権、特許権、商標権、意匠権について解説~
本稿では、知的財産権を譲渡する際の手続きについて、解説します。
知的財産権の譲渡は、知的財産権の譲渡自体を目的とする取引の場面だけではなく、業務委託の結果として得られた成果物に含まれる知的財産権を受託者から委託者に移転する場面でも頻出します。
目次
1 著作権の譲渡について
(1) 著作権譲渡の効力
著作権は、当事者間の合意のみによって譲渡することができます。
当事者間の合意は、口頭で行うことも可能ですが、権利関係が不明確になることを避けるため、契約書(著作権譲渡契約書や業務委託契約書等)を作成しておくことを推奨します。
(2) 著作権譲渡の対抗要件
当事者間の合意によって著作権を譲渡した場合に、譲渡の効力を第三者に対抗するためには(※1)、登録が必要です(著作権法第77条第1号)。
著作権の譲渡にあたっては、文化庁に対し、著作権の移転の登録申請を行いましょう。登録を行う場合は登録免許税が課されます。
(※1)著作権者Aが著作権XをBに譲渡した後、Aが著作権XをCにも譲渡してしまうことがあり得ます。このような場合に、Bが著作権Xの譲渡について登録を受けていれば、BはCに対して、「自分が本当の著作権者だ」と主張することができます。このことを、第三者(C)に対抗することができるといい、登録によって第三者対抗要件を具備したと表現します。一方、Bが著作権Xの譲渡について登録を受けていなければ、BはCに対して、「自分が本当の著作権者だ」と主張することはできません。 なお、著作権者Aが著作権XをBに譲渡した後、第三者Dが著作権Xを侵害した場合は、Bが登録を受けているか否かにかかわらず、BからDに対して著作権を主張することができます。このようなケースは、対抗要件の具備が問題となるケースではありません。
(3) 具体的な取引の場面における検討
著作権を譲渡する場合には、著作権譲渡契約書を作成し、登録手続きを行うことになります。
登録の申請は、原則として、譲渡人と譲受人が共同で行うか、譲渡人の承諾書を添付して行う必要がありますので、譲渡人にも協力を求めることになります。
著作権譲渡契約において、譲渡人が登録に協力すべき義務を定めておくと安心です。登録費用をどちらが負担するかも可能であれば明記します。
業務委託等の取引に付随して著作権を移転することも考えられます。
例として、システム開発を業者に委託する場合には、成果物に含まれる著作権が受託者から委託者に移転する旨が合意されることが多いです。
業務委託契約において、著作権の移転に加えて、登録手続きへの協力義務や費用負担についても規定しておきましょう。
(4) 著作権の譲渡にあたっての注意事項① 支分権
著作権は、著作物に関する様々な権利(支分権)の集合体です。
「著作権を譲渡する」とのみ規定した場合には、著作権のうち、翻訳権・翻案権等(著作権法第27条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法第28条)は譲渡人に留保されているものと推定されます(著作権法第61条第2項)。そのため、これらの権利を含むすべての著作権を譲渡するためには、「著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)を譲渡する」と明記することにより、これらの権利も譲渡対象に含む旨を明らかにする必要がありますので、ご留意ください。
なお、著作権の一部の譲渡も可能です。
(5) 著作権の譲渡にあたっての注意事項② 権利の共有
著作権が共有とされた場合、持分の譲渡や行使等は、他の共有者の同意を得なければ行うことができません(著作権法第65条。但し、正当な理由がない限り合意を拒むことはできない)。
したがって、著作権の共有持分を譲り受ける場合には、他の共有者の同意を得る必要がある点にご留意ください。
また、今後、第三者に対して持分の譲渡を検討した際にも障壁となる可能性があります。
2 特許権の譲渡について
(1) 特許権の移転の効力
当事者間の合意による特許権の移転は、登録しなければ、その効力を生じません(特許法第98条第1項第1号)。
したがって、特許権の譲渡にあたっては、特許庁に対し、登録の申請を行う必要があります。
登録の申請は、原則として、譲渡人と譲受人が共同で行わなければなりませんが、譲渡人の承諾書等を添付した場合は、譲受人のみで登録申請を行うことができます。
譲受人の単独申請のための添付資料として特許権譲渡契約書を添付することも可能ですが、その場合は契約内容がすべて明らかになってしまいますので、実務上は、譲渡契約書の代わりに譲渡証書等を添付することが一般的です。
(2) 特許を受ける権利の移転の効力と対抗要件
特許権は、設定登録によってはじめて発生します。
まだ登録が行われていない段階では、発明者は特許を受ける権利を有するにとどまっており、この特許を受ける権利についても、譲渡することができます(特許法第33条第1項)。
当事者間の合意によって特許を受ける権利を譲渡した場合の効力発生や対抗要件の具備は、譲渡と出願の先後によって以下のとおりです。
- 特許出願前に特許を受ける権利を譲渡した場合:
譲受人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない(特許法第34条第1項)。 - 特許出願後、登録前に特許を受ける権利を譲渡した場合:
その旨を特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない(特許法第34条第4項)。
特許出願後の譲渡にかかる届出は、原則として譲受人が行いますが、譲渡人が届け出ることも可能です。
いずれの場合であっても、譲渡証書や譲渡契約書等を添付する必要があります。
(3) 具体的な取引の場面における検討
特許権や特許を受ける権利を譲渡する場合には、譲渡契約書を作成します。
上記のとおり、特許権や特許を受ける権利の譲渡に際して登録申請や届出等が必要となる場合がありますので、譲渡契約において、譲渡人がこれらの手続きに協力すべき義務を定めておくとともに、可能であれば、手続費用をどちらが負担するかも明記します。
(4) 特許権等の譲渡にあたっての注意事項① 権利の共有
特許権等が共有とされた場合、原則として、持分の譲渡、出願、専用実施権の設定、通常実施権の許諾等は、他の共有者の同意を得なければ行うことができません(特許法第33条第3項、第38条、第73条)。
したがって、特許権等の共有持分を譲り受ける場合には、他の共有者の同意を得る必要がある点にご留意ください。
また、共有持分を譲り受ける場合には、上記の制限により、実務上不便が生じる可能性があります。
共有関係が生じない形での譲受けが可能でないか、ご検討ください。共有関係が避けられない場合には、あらかじめ、当該持分についてどのような運用を行いたいかを具体的に検討し、他の共有者から当該運用について同意を得ておく等の検討も必要です。
(5) 特許権等の譲渡にあたっての注意事項② 権利状況の調査
前記(4)とも関係しますが、特許権等を譲り受けるにあたっては、権利の状況に問題がないか、あらかじめ十分に調査しておく必要があります。
まずは登録原簿を確認し、共有者がいないか、専用実施権が設定されていないか(特許法第98条第1項第2号)、質権等が設定されていないか(同第95条、第98条第1項第3号)、等を確認しましょう。
また、登録原簿には現れない事項として、通常実施権が設定されていないか(同第99条)、職務発明である場合に適切な処理がなされているか、特許異議が申し立てられていたり(同第113条)無効審判係属中であったり(同第123条)しないか、等も要確認です。 調査の結果、これらのリスク要因が存在しないことが確認できた場合であっても、譲渡契約において譲渡人に表明保証を要求しておくことが考えられます。
3 商標権の譲渡について
商標権の譲渡については、特許権の譲渡に関する特許法の規定が準用されています。
商標権の譲渡の効力を発生させるために、特許庁への登録が必要であり(商標法第35条、特許法第98条)、移転登録申請は原則として譲渡人と譲受人が共同で申請しなければならない点等は、特許権の譲渡と同様です。
なお、商標権の譲渡を行う場合、商標権の全部を一括して譲渡することだけでなく、指定商品又は指定役務ごとに譲渡することも可能です(商標法第24条の2第1項)。
4 意匠権の譲渡について
意匠権の譲渡についても、特許権の譲渡に関する特許法の規定が準用されており、意匠権の譲渡の効力を発生させるために、特許庁への登録が必要です(意匠法第36条が準用する特許法第98条)。
また、意匠を受ける権利を譲渡することも可能です(意匠法第15条第2項、特許法第33条第1項)。
出願前の権利移転については出願が対抗要件とされますが、出願後登録前の権利移転については、特許庁長官への届出が効力発生要件とされる点についても、特許を受ける権利の譲渡と同様です(意匠法第15条第2項、特許法第34条第1項、第4項)。
5 まとめ
各知的財産権の譲渡に関してご説明しました。
知的財産権の譲渡を行う場合には、以上の点を踏まえ、個別事情を盛り込みながら譲渡契約書を作成するとともに、必要な手続きを行う必要があります。
また、業務委託契約を締結する場合には、成果物の納入等に伴って知的財産権を移転する必要がないかをご検討いただき、業務委託契約書内で適切に知的財産権の取扱いを規定することが重要です。
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