生成AIと著作権の現在地

生成AIが注目を集め、様々な分野でそのニーズが高まっています。そのような中、文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、令和6年3月15日、「AIと著作権に関する考え方について」を公表しました。この文書は、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知するために取りまとめられたものです。

本記事では、「AIと著作権に関する考え方について」の記載を参照しつつ、生成AIと著作権の関係を整理したいと思います。ぜひ、生成AIの利活用を検討する際の参考にしてください。
以下では、「AIと著作権に関する考え方について」を「考え方」といいます。

【この記事のポイント】

  • 著作物を学習用データとして収集・複製して学習用データセットを作成し、当該データセットを学習に利用してAI(学習済みモデル)を開発する際、既存の著作物の利用が行われることが想定されるが、このようなAI開発のための学習は、著作権法第30条の4により許容される可能性があること(目次2(1))。
  • 生成・利用段階では、生成物の生成行為と生成物のインターネットを介した送信などの利用行為について、既存の著作物の著作権侵害となる可能性があり、類似性と依拠性の両者が認められる際に著作権侵害となること(目次3(1))。
  • AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されること(目次4)。

1 生成AIと著作権の関係

生成AIは、文章、プログラミングコード、画像、音声、動画等の様々なコンテンツを生成することができるAIの総称です。従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することを目的とします。

一般的に、生成AIの開発と利用は、下記表のとおり、「開発・学習段階」と、「生成・利用段階」の2つに分けることができます。

引用:AIと著作権(文化庁)

本記事では、まず、開発・学習段階における著作権法上の問題を検討した上で(下記2)、次に生成・利用段階における著作権法上の問題を検討します(下記3)。
最後に、生成AIによる生成物の著作物性について検討します(下記4)。

2 開発・学習段階

(1) 著作権法第30条の4

AI開発・学習段階においては、著作物を学習用データとして収集・複製して学習用データセットを作成し、当該データセットを学習に利用してAI(学習済みモデル)を開発することが想定されます。

この過程において、既存の著作物の利用が行われることが想定されますが、このようなAI開発のための学習においては、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について定めた著作権法第30条の4において、著作権者の権利が制限されております。

同条は、「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定めています。

上記は、著作権法の平成30年改正において新設された条文です。平成30年改正では、同条を含む「柔軟な権利制限規定」が創設されました。その趣旨は、技術革新により大量の情報を収集し、利用することが可能となる中で、イノベーション創出等の促進に資するものとして著作物の市場に大きな影響を与えないものついて個々の許諾を不要とするというものです。同条の要件を解釈するには、このような改正趣旨等を踏まえて解釈する必要があります(考え方17頁)。

以下では、著作権法第30条の4の解釈について説明いたします。

① 「享受」とは

ある行為が著作権法第30 条の4に規定する「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、同条の立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を踏まえ、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなります。「享受」を目的とする行為に該当するか否かの認定に当たっては、行為者の主観に関する主張のほか、利用行為の態様や利用に至る経緯等の客観的・外形的な状況も含めて総合的に考慮されます(考え方10頁)。

そして、当該著作物について、複数の目的のうちにひとつでも享受目的が含まれていれば、同条の要件を欠くことになり、同条は適用されません。例えば、既存の学習済みモデルに対する追加的な学習のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製を行う場合には、享受目的が併存するとされます(考え方19~20頁)。

② 但書の考え方

著作権法第30条の4の但書は、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、同条の適用はないとしています。この但書は、同条の権利制限の対象となる行為によって著作権者の利益が不当に害されることがないよう定めたものです。

但書の該当性検討には、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要とされています。

但書に該当する例として、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が示されています(考え方23~24頁)。

また、AI学習のための複製等を防止する技術的な措置を採ることについては、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能です。

そのような著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ、そのような措置が講じられていることや、過去の実績といった事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して、クローラにより当該ウェブサイト内に掲載されている多数のデータを収集することによりAI学習のために当該データベースの著作物の複製等をする行為は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、当該データベースの著作物との関係で、同条但書に該当する可能性が指摘されています(考え方26~27頁)。

(2) 検索拡張生成(RAG)(考え方21~22頁)

生成AI によって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成する手法として、検索拡張生成(RAG)という仕組みがあります。これを実装しようとする場合、開発・学習段階において、生成AI 自体の開発に伴う学習のための著作物の複製等のほかに、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の行為に伴う著作物の複製等が生じ得ます。

このような場合、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータが著作物を含まないものであれば著作権法上の問題は生じません。また、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに著作物が含まれる場合でも、RAG等に用いられるデータベースを作成する等の行為に伴う著作物の複製等が、回答の生成に際して、当該データベースの作成に用いられた既存の著作物の創作的表現を出力することを目的としないものである場合は、当該複製等について、非享受目的の利用行為として著作権法第30条の4が適用され得ると考えられます。

他方、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに著作物が含まれる場合であって、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う著作物の複製等が、生成に際して、当該複製等に用いられた著作物の創作的表現の全部又は一部を出力することを目的としたものである場合には、当該複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、著作権法第30 条の4は適用されないと考えられます。

もっとも、著作権法第30条の4が適用されない場合でも、RAG等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することは、軽微利用であれば、電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等について定めた同法第47条の5第1項第1号・第2号に付随する行為として権利制限の対象となります。

(3) 侵害に対する措置(考え方29~30頁)

著作権侵害が認められる場合、AI学習のための複製を行った者が受けうる措置としては、損害賠償請求(民法第709条)、差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求(著作権法第112条第1項)、侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条第2項))、刑事罰(同法第119条)等が規定されています。 ただし、損害賠償請求については著作権侵害について故意又は過失が、刑事罰については故意の存在が必要です。

著作権法第112条第2項は、廃棄請求の対象を、「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」と定めています。

AI学習により作成された学習済みモデルは、学習に用いられた著作権の複製物とは言えない場合が多いことや、学習済みモデルは学習データである著作物と類似しないものを生成することができると考えられるため、基本は「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に該当しないと考えられます。しかし、類似性のある生成物を高確率で生成する状態にある等の場合は、学習データである著作物の創作的表現が当該学習済みモデルに残存しているとして、廃棄請求が認められる場合もあり得ます。

3 生成・利用段階

(1) 著作権侵害の判断要素(考え方32頁)

生成・利用段階では、生成物の生成行為(著作権法における複製等)と、生成物のインターネットを介した送信などの利用行為(著作権法における複製、公衆送信等)について、既存の著作物の著作権侵害となる可能性があり、基本的にはAIを使わずに行う創作活動の際の著作権侵害の要件と同様に考えることになります。

既存の判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性(他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いること)の両者が認められる場合に、著作権侵害となるとされています。

(2) 類似性(考え方32~33頁)

類似性は従来、表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分について既存の著作物との同一性があるにとどまるものではなく、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものについて認められるとされており、これはAI 生成物と既存の著作物との類似性の判断についても同様と考えられます。

(3) 依拠性(考え方33~35頁)

既存の判例・裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきました。他方、生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していない場合があり、この点が依拠性の判断に影響しうると考えられます。

① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合

生成AI を利用した場合であっても、AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AI を利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI 利用者による著作権侵害が成立すると考えられます。

② AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合

この場合、客観的には当該著作物へのアクセスが認められますので、通常は依拠性があったと推認され、著作権侵害になりうると考えられます。 

ただし、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような状態が技術的に担保されているといえる場合には、当該生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合であっても依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられます。

➂ AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつAI学習用データに当該著作物が含まれない場合

この場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物及び類似した生成物が生成されたとしても、偶然の一致に過ぎないため、依拠性は認められません。

(4) 侵害に対する措置

① 取り得る措置の内容(考え方35頁)

著作権侵害が認められた場合、侵害者が受け得る措置としては、差止請求、損害賠償請求、刑事罰が考えられます。

また、AI利用者が侵害行為にかかる著作物等を認識していなかった場合、AI利用者に対して、著作物の使用量相当額として合理的に認められる額の不当利息返還請求が認められることはあり得るとされています。

② 差止請求として取り得る措置(考え方35~36頁)

生成AIを利用し著作権侵害をした者に対し新たな侵害物の生成、及びすでに生成された侵害物の利用行為の差止め、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられます。

また、AI開発事業者が行為主体として著作権侵害の責任を負う場合、AI開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成AIの開発に用いられたデータセットが、その後もAI開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為にかかる著作物等の廃棄の請求をすることも可能と考えられます。

AI開発事業者又はAIサービス提供事業者が行為主体として著作権侵害の責任を負う場合、侵害物を生成した生成AIについて、当該生成AIによる生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高い場合には、生成AIに対する技術的な制限を付すなど、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置の請求をすることが可能と考えられます。

(5) 侵害行為の責任主体(考え方36~37頁)

既存の判例・裁判例では、著作権侵害の主体は物理的に侵害を行った者のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合があるとされています。

AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合も、原則は物理的な行為主体であるAI利用者が著作権侵害の主体となります。

ただし、ある特定の生成AIを用いると侵害物が高頻度で生成される場合、生成AIの開発・提供にあたり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する措置を採っていない場合などには、生成AIの開発やサービス提供を行う事業者が行為主体として責任を負う場合があると考えられます。

4 生成物の著作物性(考え方39頁以下)

著作権法上、「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法第2条第1項第1号)と定義されており、AI 生成物が著作物に該当するかは、この著作物の定義に該当するか否かによって判断されます。

また、「著作者」は「著作物を創作する者をいう。」(同項第2号)と定義されていますので、AIは「創作する者」には該当しません。したがって、生成物が著作物に該当すると判断された場合も、AI 自身がその著作者となるものではなく、当該AI を利用して「著作物を創作した」人が当該AI 生成物(著作物)の著作者となります。

その上で、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられます。AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されます。

具体的には、指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、生成の試行回数、複数の生成物からの選択などの要素が考慮されます。

例えば、ごく簡単のプロンプトを入力しただけでAIが作成した生成物には著作物性は認められないでしょう。他方で、AI利用者がプロンプト入力の際に種々の工夫を加えたような場合には、生成物に著作物性が認められる可能性があります。

5 最後に

本記事では、「AIと著作権に関する考え方について」の記載を参照しつつ、生成AIと著作権の関係を整理いたしました。

今後も生成AIの利用が増加するにつれて、生成AIと著作権の関係が問題となるケースは増えていくことが予想されます。

生成AIの利活用を検討する上では、本記事で取り扱った著作権法上の問題だけではなく、不正競争防止法や個人情報保護法等、幅広い法律とのの関係が問題となり得ますので、生成AIの利活用を検討する際には専門知識を持った弁護士に相談することを推奨いたします。

本記事が生成AIの利用を検討する上での参考になれば幸いです。

執筆者
シニアアソシエイト/弁護士
宮本 庸弘

S&W国際法律事務所お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top