2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の概要と実務対応について

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス法」といいます。)が2024年11月1日に施行されました。フリーランス法では、フリーランスを「特定受託事業者」として定義し、その第1条では、目的として、「我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」を挙げています。

厚生労働省等が作成した説明資料では、法律の趣旨・目的に関して、フリーランスを取り巻く背景と問題点を下記のようにさらに具体的に説明してくれています。

【背景】
  • 近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が普及。特に、デジタル社会の進展に伴う新しい働き方の普及(いわゆるギグワーカー、クラウドワーカー等)。
  • フリーランスを含む多様な働き方を、それぞれのニーズに応じて柔軟に選択できる環境を整備することが重要となっている。
  • 一方で、実態調査やフリーランス・トラブル110番などにおいて、フリーランスが取引先との関係で様々な問題・トラブルを経験していることが顕著になる。
<参考>
  • 実態調査(令和3年 内閣官房ほか)では、フリーランスの約4割が報酬不払い、支払遅延などのトラブルを経験。また、フリーランスの約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していない。
  • フリーランス・トラブル110番では、報酬の支払いに関する相談が多く寄せられているほか、ハラスメントなど就業環境に関する相談も寄せられている。
【問題の要因】
  • 一人の個人として業務委託を受けるフリーランスと、組織たる発注事業者との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことがある。
  • 例えば、①従業員がいない受注事業者は時間等の制約から事業規模が小さく特定の発注事業者に依存することとなりやすい、②発注事業者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払われないことが多い、といった事情があり、発注事業者が報酬額等の取引条件を主導的立場で決定しやすくなる等の形で現れ得る。
「個人」たる受注事業者は「組織」たる発注事業者から業務委託を受ける場合において、取引上、弱い立場に置かれやすい特性がある。

本稿では、このような背景のもとに制定され、2024年11月1日から施行されたフリーランス法の概要をご紹介するとともに、その具体的な実務対応について厚生労働省作成のQ&Aを参考にしながら検討します。

1 フリーランス法の適用対象となる当事者や取引の定義について

まず、フリーランス法が適用対象となる当事者や取引の定義については、フリーランス法第2条に具体的に定めがあり、以下のとおり定義されています。

「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方であって、①個人であって、従業員を使用しないもの、②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの、のいずれかに該当するものをいいます(フリーランス法第2条第1項)。

「特定受託事業者」とは、具体的には、

  • 建設会社から住宅建設の業務の一部を受託する一人親方
  • フードデリバリーサービスの提供事業者が消費者から受注した飲食物の配達を受託する、当該サービスに登録して配送を行うもの
  • 企業から同社の訴訟の代理を受託する弁護士

のうち、従業員を使用しないものが該当するとされています(厚生労働省作成のQ&A参照)。

では、「従業員を使用しないもの」とは具体的には、どのような場合に該当するのでしょうか。

この点については、「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)を雇用することをいいます。そのため、短時間・短期間等の一時的に雇用される労働者を雇用することは、「従業員を使用」に含まれません(厚生労働省作成のQ&A参照)。

では、発注事業者としては、相手方が「従業員を使用しないもの」かどうかを、どのタイミングで、どのように確認すればよいのでしょうか。

この点については、発注事業者は、業務委託をする時点で受注事業者の「従業員」の有無を確認することになります。また、受注事業者の「従業員」の有無の確認は、口頭によることも可能ですが、発注事業者や受注事業者にとって過度な負担とならず、かつ、トラブル防止の観点から、記録が残る方法で確認することが望ましく、例えば電子メールやSNSのメッセージ機能等を用いて受注事業者に確認する方法などが考えられます(厚生労働省作成のQ&A参照)。

「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいいます(フリーランス法第2条第2項)。
「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいいます(フリーランス法第2条第3項)。

では、事業者が「その事業のため」に委託するとは、どのような場合なのでしょうか。

この点については、法人である発注事業者については、法人が自身の事業の用に供するために行う委託行為は「事業のため」に委託する行為に該当します。ただし、法人の事業は必ずしも定款に具体的に記載されている目的に限られるものではありません。また、個人である発注事業者については、事業者として契約の当事者となる場合も、消費者として契約の当事者となる場合もあり得るところ、個々の具体的な業務委託に応じて、当該個人が事業者として契約の当事者となっているといえる場合には「事業のため」に該当します。
なお、発注事業者(法人であるか個人であるかを問いません。)が純粋に無償の行為のために行う委託は「事業のため」に委託する行為に該当しません。

「事業者として契約の当事者となっているか」の判断の際には、

  1. 契約締結の段階で、業務の内容が事業の目的を達成するためになされるものであることが客観的、外形的に明らかであるか
  2. 事業の目的を達成するためになされるか否かが客観的、外形的に明らかでない場合には、消費者として当該業務委託に係る給付を受けることが想定し難いものか

を考慮します(厚生労働省作成のQ&A参照)。

「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます(フリーランス法第2条第5項)。
「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、①個人であって、従業員を使用するもの、②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもののいずれかに該当するものをいいます。(フリーランス法第2条第6項)。ただし、「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません。

2 特定受託事業者に係る取引の適正化

(1)  取引条件の明示義務

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額等(具体的には次の1~9)を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません(フリーランス法第3条第1項)。

  1. 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
  2. 業務委託をした日
  3. 特定受託事業者の給付(提供される役務)の内容
  4. 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日等
  5. 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
  6. 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  7. 報酬の額
  8. 支払期日
  9. 現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項

ただし、上記の事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないとされています。この場合に、業務委託事業者は、未定事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません(フリーランス法3条第1項但書)。

(2) 期日における報酬支払義務

特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めてそれまでに支払わなければなりません(フリーランス法第4条第1項・第5項)。

なお、支払期日を定めなかった場合などには、次のように支払期日が法定されます(フリーランス法第4条第2項)。

  1. 当事者間で支払期日を定めなかったとき ⇒ 物品等を実際に受領した日
  2. 物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき ⇒ 受領した日から起算して60日を経過した日の前日

(3) 特定業務委託事業者の遵守事項

特定業務委託事業者は、特定受託事業者との業務委託(1か月以上のもの)に関して、次の1~5の行為をしてはなりません(フリーランス法第5条第1項)。

  1. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒否すること
  2. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  3. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
  4. 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  5. 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制することまた、特定業務委託事業者は、次の6・7の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはなりません(フリーランス法第5条第2項)。


    また、特定業務委託事業者は、次の6・7の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはなりません(フリーランス法第5条第2項)。
  6. 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  7. 定受託事業者の責めに帰すべき事由なく給付の内容を変更させ、又は給付をやり直させること

3 特定受託業務従事者の就業環境の整備

(1) 募集情報の的確表示義務

特定業務委託事業者は、広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないものとされました(フリーランス法第12条)。

(2) 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務

特定業務委託事業者は、その行う業務委託の相手方である特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下、「継続的業務委託」という。)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないものとされました(フリーランス法第13条)。

(3) ハラスメント対策に係る体制整備義務

特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないものとされました(フリーランス法第14条)。

(4) 中途解除等の事前予告・理由開示義務

特定業務委託事業者は、継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないものとされました(フリーランス法第16条)。

4 違反した場合等の対応

フリーランス法の規定に違反した場合は、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとされ(フリーランス法第8条、第9条、第11条、第18~第20条、第22条)、命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処する(フリーランス法第24条)こととし、法人両罰規定が設けられました(フリーランス法第25条)。

執筆者
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士
河野 雄介

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