税制適格ストックオプションの年間権利行使価額の引上げ・発行会社自身による株式管理スキーム等(令和6年4月1日改正)と過去に締結された割当契約の変更合意

昨今、税制適格ストックオプションは、改正が相次いでおり、令和6年4月1日には、①年間権利行使価額の限度額の引上げ、②発行会社自身による株式管理スキーム、③社外高度人材に対するストックオプション税制について、改定が行われました。

また、過去(令和6年3月以前)に発行した税制適格ストックオプションにおいても、これらの恩恵を受けることができますが、恩恵を受けるためには、本年(令和6年)12月31日までの間に、割当契約の変更合意をする必要があります。

特に、②発行会社自身による株式管理スキームの変更は、M&Aでのexitを想定すると重要です。M&Aにより発行会社の支配権が変更する場合には証券会社への管理等信託が難しいケースがありますが、今後は、発行会社自身による株式の管理に関する取決めに従った管理という選択が用意され、解決が図られています。

1 税制適格ストックオプションとは

ストックオプション税制は、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税する制度です。

ストックオプション税制の適用を受けるためには、次に掲げるような要件を満たす必要があります。

(1) 付与対象者の範囲会社及びその子会社の取締役、執行役及び使用人
(大口株主及びその特別関係者を除く)
【※一定の要件を満たす社外高度人材】(下記2を参照)
(2) 権利行使期間付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日まで
(設立の日以後の期間が5年未満の非上場会社においては「10年」ではなく「15年」)
(3) 権利行使価額権利行使価額が契約締結時の株式の価額相当額以上

なお、契約締結時の株式の価額に関する考え方は、「税制適格ストックオプションに関する実務はどう変わる?~権利行使価額要件に関する通達改正~」を参照
(4) 権利行使限度額権利行使価額の年間の合計額が1200万円を超えない

なお、「権利行使価額」は、付与決議日において設立の日以後の期間が5年未満の場合は、権利行使価額を2で除した金額。付与決議日において設立の日以後の期間が5年以上20年未満で、非上場会社又は上場の日以後の期間が5年未満の上場会社の場合は、権利行使価額を3で除した金額(下記3を参照)
(5) 譲渡制限譲渡禁止
(株式の譲渡制限ではなく、新株予約権の譲渡禁止であることに留意)
(6) 発行形態無償であること
(7) 株式の交付会社法第238条第1項に定める事項に反しないこと
(8) 株式の管理行使により取得する株式について金融商品取引業者等の振替口座簿に記載若しくは記録を受け、又はその営業所等に保管の委託若しくは管理等信託がされること

なお、譲渡制限株式については、会社自身による株式の管理に関する取決めに従った管理でも可(下記4及び5を参照)

※ 【】の中は、設立10年未満等の一定の要件を満たす株式会社が「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」を策定し、主務大臣である経済産業大臣による認証を受けることが必要です。

2 ストックオプション税制が適用可能な社外高度人材の範囲拡充(令和6年4月1日税制改正)

社外高度人材に対するストックオプション税制は、ストックオプション税制の適用対象者を、社内の取締役及び従業員等に加えて、高度な知識又は技能を有する社外の人材にまで拡大する制度で、設立10年未満等の一定の要件を満たす株式会社が「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」を策定し、主務大臣である経済産業大臣による認証を受けることが必要です。

今回の改正により、社外高度人材とは、具体的には、スタートアップの成長に貢献する業務を担う弁護士や会計士等の国家資格を保有する者、博士、高度専門職の在留資格を以て在留する者、教授及び准教授、上場企業等の役員等の経験が1年以上ある者、先端人材、エンジニアや営業担当者等が当たることになりました。
また、認定対象企業の要件のうち「新事業活動に係る投資及び指導を行うことを業とする者が新規中小企業者等の株式を最初に取得する時において、資本金の額が5億円未満かつ常時使用する従業員の数が900人以下の会社であること」との要件が廃止されました。

具体的な「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」の策定及び認定のための申請は、経済産業省の社外高度人材に対するストックオプション税制に関するウェブサイトをご確認ください。

3 年間権利行使価額の限度額の引上げ(令和6年4月1日税制改正)

令和6年度税制改正において、スタートアップの人材獲得力向上のため、一定の株式会社が付与するストックオプションについて年間の権利行使価額の限度額を引き上げました。

(1) 上限2,400万円/年への引上げ

設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与するストックオプション

(2) 上限3,600万円/年への引上げ

設立の日以後の期間が5年以上20年未満の株式会社で、非上場会社又は上場の日以後の期間が5年未満の上場会社が付与するストックオプション

4 発行会社自身による株式管理スキームが可能に(令和6年4月1日税制改正)

令和6年度税制改正において、譲渡制限株式について、発行会社による株式の管理がされる場合には、証券会社等による株式の保管委託に代えて発行会社による株式の管理も可能となりました。

この株式管理スキームの詳細な説明は、経済産業省の「発行会社自身による株式管理スキーム(PDF)」をご参照ください。

また、この中で必要とされる区分管理帳簿のフォーマットは、経済産業省の「区分管理帳簿のフォーマット(例)(Excel)」をご参照ください。

5 【重要】過去(令和6年3月末日以前)に発行した税制適格ストックオプションに関する変更合意は令和6年12月31日までにすること

改正後税制は令和6年分以後の所得税について適用され、令和5年分以前の所得税については、なお従前の例によるとされています。

しかしながら、令和6年3月31日以前に締結された契約について、令和6年4月1日から同年12月31日までの間に、①年間の権利行使価額の限度額、②発行会社自身による株式管理スキームに関する契約の変更をし、改正後税制に規定するそれぞれの要件を定めた場合には、改正後税制の要件が定められている契約とみなされ、改正後税制が適用されます(租税特別措置法 附則(令和6年3月30日法律第8号)第31条第1項、第2項)。

【変更合意書の一例】
第●条 原契約の変更
1. 原契約の第●条第●項を以下のとおり変更する。
(変更前)
本新株予約権の行使に係る払込金額の年間(1月1日から12月31日まで)の合計額は、金1,200万円を超えることができない。ただし、この金額は、租税特別措置法第29条の2第1項第2号に定める金額が改正され、改正後の金額の適用が可能となったときは、当該改正を含む改正租税特別措置法の施行日に当該改正後の金額に変更されるものとする。

(変更後)
1年間(各年の1月1日から12月31日まで)に行使される本新株予約権の行使価額を2で除して計算した金額の合計額は1200万円を超えないものとし、新株予約権者はその範囲内でのみ本新株予約権を行使できる。ただし、この金額は、租税特別措置法第29条の2第1項第2号に定める金額が改正され、改正後の金額の適用が可能となったときは、当該改正を含む改正租税特別措置法の施行日に当該改正後の金額に変更されるものとする。
 

2. 原契約の第●条第●項を以下のとおり変更する。
(変更前)
新株予約権者は、租税特別措置法第29条の2第1項第6号の規定に従い、本新株予約権の行使により株式を取得するに当たり、会社を通じて、会社の指定する口座管理機関(以下、「指定証券会社等」という。)の新株予約権者名義の振替口座(特別口座を除く。)に記載若しくは記録を受け、又は指定証券会社等の営業所又は事業所に保管の委託を行うものとする。

(変更後)
新株予約権者は、割当新株予約権の行使により取得する株式につき、以下のいずれかの方法により管理等を行うものとする。
①当該行使に係る会社と金融商品取引業者又は金融機関(以下「金融商品取引業者等」という。)との間であらかじめ締結される新株予約権等の行使により交付される会社の株式の振替口座簿への記載若しくは記録、保管の委託又は管理及び処分に係る信託(以下「管理等信託」という。)に関する取決めに従い、当該取得後直ちに、会社を通じて、当該金融商品取引業者等の振替口座簿に記載若しくは記録を受け、又は当該金融商品取引業者等の営業所若しくは事務所に保管の委託若しくは管理等信託がされること。なお、かかる金融商品取引業者等については追って会社より新株予約権者に通知する。
②当該行使にかかる会社と新株予約権者との間であらかじめ締結される新株予約権の行使により交付される会社の株式の管理に関する取決めに従い、当該取得後直ちに、会社により管理がされること。

このような変更合意書の締結を希望される場合は、本年(令和6年)12月31日までに、変更契約を締結する必要がありますので、お早めに発行に関与した弁護士又はアドバイザリー組織等にご連絡の上、ご対応することをお勧めします。

当事務所でも対応可能ですので、ご相談されたい場合は、お問い合わせページからご連絡ください。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
森 理俊

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