特別利害関係のある取締役に該当するのは、どのような場合か

取締役会は、取締役の全員で組織され、会社の業務執行に関する意思決定をなす機関です。

各取締役は、会社のために忠実に業務を執行する義務を負っていますので、取締役会においても、会社の利益のために議決権を行使することが期待されます。ところが、議案によっては、会社と取締役の間で利害が対立する場合があります。

そのため、会社法は、このような利害対立を予防することで、取締役会決議の公正さを担保するために、決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないことを定めています(会社法第369条第2項)。

では、どのような場合に特別の利害関係が存在し、特別の利害関係が存在する場合にはどのような対応が必要となるのでしょうか。これらの点について解説します。

1 特別利害関係のある取締役に該当するのは、どのような場合か

取締役会決議についての特別の利害関係とは、特定の取締役が、当該決議について、会社に対する忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる利害関係をいうと解されています。

具体的には、どのような場合に、どのような取締役が、「特別利害関係のある取締役」に該当するのでしょうか。

(1) 特別利害関係があると解される場合

例として、以下のような場合に、取締役Pは、当該取締役会決議について特別利害関係を有すると解されています。

  1.  取締役Pが譲渡制限株式を譲り受ける/譲り渡すことに関する譲渡承認決議
  2.  取締役Pが競業取引又は利益相反取引を行おうとすることの承認決議
  3.  定款の定めに基づいて取締役Pの会社に対する損害賠償責任を免除することの決議
  4.  会社と取締役Pの間で訴訟が提起された場合に、会社代表者の選任決議
  5.  取締役Pに対して第三者割当増資を行うことの決議(※1)
  6.  取締役Pに対して新株予約権を割り当てることの決議(※2)
  7.  代表取締役Pを解職する決議(※3)

なお、5に関して、取締役全員に対して第三者割当増資を行おうとする場合は、すべての取締役が特別利害関係を有することとなってしまい、議決に加わることのできる取締役が存在しないこととなります。このような場合には、各取締役に割り当てる部分についてそれぞれ別個に決議することにより、その他の取締役は、特別利害関係を有しないと解されています。この解釈を前提として、実務上は、以下のように対応しています。

例)取締役としてA、B、Cの3名が存在する会社において、取締役全員に対して第三者割当増資を行う場合


  • 第1号議案 取締役Aに対する募集株式発行の件
    →取締役Aは特別利害関係を有するが、取締役Bと取締役Cは特別利害関係を有しない
  • 第2号議案 取締役Bに対する募集株式発行の件
    →取締役Bは特別利害関係を有するが、取締役Aと取締役Cは特別利害関係を有しない

  • 第3号議案 取締役Cに対する募集株式発行の件
    →取締役Cは特別利害関係を有するが、取締役Aと取締役Bは特別利害関係を有しない

 

3に関して、取締役全員に対する損害賠償責任を免除する場合等も同様に対応します。

(※1)会社法第361条の改正により、取締役の報酬としての募集株式割当が明記されたことを踏まえ、後記(※2)と同様に、特別利害関係人にあたらないとの見解もあります。しかし、現時点で、上記法改正を踏まえた議論が十分になされているとはいえず、実務上は、特別利害関係人にあたることを前提として処理することが考えられます。

(※2)ストックオプションの割当てに関しては、取締役の報酬として支給されるものとして特別利害関係人にあたらないとの見解がありますが(後記(2)4参照)、実務上は、特別利害関係人にあたることを前提として処理することも一般的です。

(※3)解職決議が可決されれば、代表取締役Pは、代表権限を有しない取締役となります。取締役の解任決議とは異なるものです。
なお、解職決議につき当該代表取締役が特別利害関係を有するかという点については議論が分かれていますが、判例は特別利害関係を有する者にあたらないと判断していますので、当該判断に倣って記載しています。

(2) 特別利害関係がないと解される場合

一方、以下の場合には、取締役Pは、特別利害関係を有しないと解されます。

  1. 取締役Pを代表取締役に選定する決議
  2. 取締役Pを業務担当取締役に選定する決議
  3. 取締役Pが取引先Aの取締役を兼任する場合に、取引先Aとの取引を行うことを決定する決議(※4)
  4. 株主総会で取締役の報酬の上限が定められた場合に、取締役会において、取締役Pに対する具体的支給額を決定する決議

(※4)取締役Pが取引先Aの代表取締役を兼任する場合には、前記(1)2の利益相反取引に該当するものとして、取締役Pは特別利害関係を有すると解されます。

2 特別利害関係を有する取締役に対する制限はどのようなものか

会社法は、特別利害関係を有する取締役について、「議決に加わることができない」と規定するのみですが、具体的には何が禁止されるのでしょうか。

(1) 議決権の行使

特別利害関係を有する取締役は、当該議案について、議決権を行使することができません。当該議案に関しては、定足数算定の基礎からも除外されます。
同じ取締役会に諮られるその他の議案については、議決権を行使することが可能です。

(2) 審議への参加

特別利害関係を有する取締役は、取締役会において、当該決議について意見を述べる権利はないと解されています。
また、特別利害関係を有する取締役に対して退席が要求された場合には、指示に従わなければなりません。

(3) 議長としての権限の行使

特別利害関係を有する取締役は、議長の権限を失います。
例として、多くの会社では、代表取締役が取締役会の議長を務めます。この場合、議案の中に、代表取締役が特別利害関係を有する議案が含まれていれば、当該議案の審議に関してのみ、他の取締役に議長を交代するとの対応が必要です。

3 取締役会議事録への記載

特別利害関係取締役が存在する場合には、取締役会議事録にその旨を記載しなければなりません。
実務上は、「取締役●●は特別の利害関係を有するため、本議案について決議に参加しなかった。」等と記載することが一般的です。議長を交代した場合には、その旨も併せて記載します。

4 特別利害関係を有する取締役が関与してしまった決議の効力

特別利害関係を有する取締役が議決権を行使した場合であっても、当該取締役を除外しても決議が成立する場合は、当該決議は有効と解されています。

特別利害関係を有する取締役が審議に参加した場合であっても、それについて他の取締役が特に異議を唱えなかった場合には、当該決議は有効と解されています。 特別利害関係取締役が議長として議事を主宰したときは、違法な決議として無効と解されます。

5 株主総会との相違

株主総会においては、取締役会と異なり、決議に特別利害関係を有する株主の議決権行使は排除されません。
決議について特別の利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたときに初めて、当該決議の取消事由となるにすぎません(会社法第831条第1項第3号)。

6 まとめ

以上ご説明したとおり、取締役会決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決権を行使することができず、審議にも参加できず、議長を務めている場合には議長を交代しなければなりません。取締役会の議事録にも記録を残しておく必要があります。

どのような場合に特別利害関係を有するとされるかを把握しておくことで、適法な取締役会の運営を目指しましょう。

執筆者
カウンセル/弁護士
和田 眞悠子

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