取締役会設置会社に移行する際の定款変更のポイント
取締役会を設置していなかったスタートアップや中小企業が、新たに取締役会を設置しようとする場合、定款の変更が必要です。
また、取締役会を設置するにあたり、必ずしも定款に記載しなければならないわけではないものの、定款に記載することで初めて実現可能となる組織運営の制度もあります。
この記事では、取締役会を設置する際の定款変更のポイントや、記載例について、弁護士の視点から解説します。
目次
1 必ず確認すべき定款の定め
株式会社が新たに取締役会を設置する際には、定款に新たに記載すべき事項がないかや、実態に合わない記載を変更する必要がないか注意する必要があります。
(1)機関設計
まず、取締役会を設置する際には、取締役会を設置する旨の定款の規定を設けることが必須です(会社法第326条第2項)。
また、取締役会設置会社は、監査役(非公開会社では、監査役または会計参与)を設置しなければなりません(会社法第327条第2項)。
取締役会設置会社への移行に伴って、監査役または会計参与を新たに設置する場合には、その旨の定款の規定を設けることも必要となります。
【規定例】
第●条(機関) 当会社は、株主総会及び取締役のほか、次の機関を置く。 1. 取締役会。 2. 監査役。 |
上述の監査役の設置に関して、非公開会社では監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することが可能ですが、この場合、その旨を定款に定めることが必要です(会社法第389条第1項)。
【規定例】
第●条(監査役の権限の範囲の限定) 当会社の監査役の監査の範囲は、会計に関するものに限る。 |
(2)譲渡承認機関
取締役会設置会社である譲渡制限会社の株式譲渡の承認機関は、会社法上の原則は取締役会であり(会社法第139条第1項)、実際にも取締役会にすることがほとんどです。
【規定例】
第●条(株式の譲渡制限) 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。 |
(3)取締役の員数や代表取締役の選定機関
他にも、例えば、取締役会設置会社においては、取締役は3人以上が必要であり、代表取締役の選定を取締役会で行う必要があります(会社法第331条第5項、第362条第2項第3号)。
そのため、「当会社の取締役は、2名とする」といった規定や、「代表取締役は、取締役の互選によってこれを定める」といった規定が定款にある場合には、以下の規定例のような規定への変更を検討する必要があります。
【規定例】
第●条(取締役の員数) 当会社の取締役は、3名以上、7名以内とする。 第●条(代表取締役及び役付取締役) 1. 取締役会は、その決議によって代表取締役を選定する。 2. 取締役会は、その決議によって取締役会長、取締役社長各1名、取締役副社長、専務取締役、常務取締役各若干名を定めることができる。 |
(4)株主総会の招集期間
株主総会の招集期間は、非公開会社である取締役会非設置会社であれば、定款の定めによりどのような期間とすることも可能ですので、「株主総会を招集するには、会日より3日前までに、各株主に対して招集通知を発するものとする。」という規定が可能です(会社法第299条第1項)。
しかし、非公開会社である取締役会設置会社では、定款の規定によって1週間を下回る期間を定めることはできませんので、「株主総会を招集するには、会日より1週間前までに、各株主に対して招集通知を発するものとする。」との規定に変更するか、規定を削除する(規定を削除しても会社法に基づき1週間となります。)かを選択する必要があります。
2 推奨される定款の定め
会社法上、取締役会設置会社の定款に規定が定められていることで初めて実現が可能となる制度も存在します。
(1)取締役会の書面決議
代表的なものが、「取締役会の決議の省略」(いわゆる書面決議。会社法第370条)です。
この制度は、取締役による提案について、実際に取締役会を開かずとも、取締役の全員が書面等により同意した場合には、監査役が異議を述べたときを除き、取締役会の決議があったものとみなすことができる制度であり、非常に便利です。
【規定例】
第●条(取締役会の決議の省略) 取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。ただし、監査役が異議を述べたときは、この限りでない(※1)。 |
※1 監査役に会計監査限定が付されている場合は、監査役に拒否権がありませんので、ただし書を削除する必要があります。
(2)株式の割当を受ける権利等の決定
非公開会社で取締役会非設置会社であっても、いわゆる株主割当増資をする際の意思決定機関を取締役の決定とすることができます(会社法第202条第3項第1号)。この定款の定めは、多くの場合に定められている規定とはいえない規定ですが、取締役会を設置するか否かにかかわらず、取締役会の過半数をコントロールできる多数派株主(通常は代表取締役となっている経営株主)にとっては、少数派株主とのトラブルになった場合に株主割当増資という手段での対抗方法を確保できますので、この観点から、定めておいた方がよいと言えるでしょう。
取締役会設置会社に移行した場合、意思決定機関を取締役会にする必要があります(会社法第202条第3項第2号)。
【規定例】
第●条(株式の割当てを受ける権利等の決定) 当会社は、当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)及び新株予約権を引き受ける者の募集において、株主に株式又は新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合には、その募集事項、株主に当該株式又は新株予約権の割当てを受ける権利を与える旨及びその申込みの期日の決定は取締役会の決議によって定める。 |
(3)取締役会関連
取締役会の招集に関する一部の事項については、定款に定めを置くことで、会社法に規定されている原則ルールとは異なるルールを採用することができます。
会社法の原則ルールからの変更提案とともに、以下に列挙します。
- 取締役会の招集権を持つ取締役に関する定め(会社法第366条第1項)
→ 会社法の原則ルール:各取締役が招集権を持つ
→ 変更提案:定款で定めた取締役が招集権を持つ - 取締役会の招集通知を発する時期に関する定め(会社法第368条第1項)
→ 会社法の原則ルール:取締役会の日の1週間前までに発する
→ 変更提案:取締役会の日の3日前までに発し、緊急時はさらに短縮を可能とする。
【規定例】
第●条(取締役会の招集及び議長) 取締役会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役社長が招集し、議長となる。取締役社長に欠員又は事故があるときは、取締役会においてあらかじめ定めた順序に従い、他の取締役が取締役会を招集し、議長となる。 第●条(取締役会の招集通知) 取締役会の招集通知は、会日の3日前までに各取締役及び各監査役(※2)に対して発する。ただし、緊急を要する場合は、この期間を短縮することができる。 |
※2 監査役に会計監査限定が付されている場合は、「及び各監査役」は不要です。
なお、取締役会の決議の方法については、定款に定めることで、会社法の原則ルールよりも要件を厳しくすることが可能ですが、反対に要件を緩やかにすることはできません(会社法第369条)。
取締役会の迅速な意思決定の促進という観点からは、あえて要件を厳しくしなくてもよいものと思われるため、以下では会社法の原則ルールと同内容の定款記載例を示します。
【規定例】
第●条(取締役会の決議要件) 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行う。 |
(4)その他
① 中間配当
スタートアップにとっては、あまり有用とは言えませんが、取締役会設置会社の定款に規定されていることが多い規定として、中間配当があります。
剰余金の配当について、1事業年度の途中において1回に限り、取締役会の決議によって、金銭による剰余金の配当をすることができる制度(いわゆる中間配当。会社法第454条第5項)は、定款へ規定することによって実現が可能です。
【規定例】
第●条(中間配当) 当会社は、取締役会の決議によって、毎年●月●日を基準日として中間配当をすることができる。 |
② 特別な取締役会決議事項
取締役会設置会社では、株主総会において法律で定められた決議事項以外の事項を決議したい場合には、定款に規定を設ける必要があります(会社法第295条第2項)。ただ、実際に規定されている例は稀です。
これらの規定を定款に設ける必要がないか、会社の組織運営の方針に合わせてご検討ください。
3 まとめ
定款の記載や変更が適切になされていないと、取締役等が罰則を受けるおそれがあります。記載すべき事項が記載されていなかったり、実態に合わない虚偽の記載がされていた場合には、取締役等は、100万円以下の過料に処する旨が定められています(会社法第976条第7号)
取締役会設置会社に移行する際には、取締役会を設置する旨の定款の規定を新設することを始め、取締役会への移行に伴って必要な定款の記載や変更がなされているかを、適切にご確認ください。
この記事では、取締役会設置会社に移行する際の定款変更のポイントについて、概要を説明しました。
取締役会設置会社に移行する際に、どのように定款を変更すればよいかご不安がある方や、自社の組織運営の方針にあった定款を作成したいというご希望がある方は、弁護士等の専門家にご相談ください。