資本政策作成時のポイント(注意点・留意点)~やってしまいがちなミス・失敗例をふまえて~

資本政策の基本~IPO前に望ましい経営持株比率、ストックオプションの適正割合~では、資本政策の基本として、資本政策とはどのようなものか説明しました。

本ブログでは、資本政策を作成する際のポイント(注意点・留意点)を説明します。この点を考えるにあたって、重要な観点があります。それは、基本的に、後戻りができない・・・・・・・・・・・・ということです。

事後的に問題が発生してから対応することによって解決できることもありますが、例外的です。また、解決に多大なコスト、時間を要することも多いですし、相応の譲歩が必要となることも少なくありません。その意味では、当初から問題が発生しないように慎重に検討して資本政策を作成する方がよほど効率的ですし、そのようにすべきです。

以下では、実務において見られるミス・失敗例を紹介するとともに、回避するための考え方や方法を紹介します。

1 会社設立時の発行株式数が少なすぎるケース

株式会社を設立する際には、株式を発行しますので、この時点から、資本政策を考えることになります。しかしながら、会社設立時に、将来の資本政策について適切な検討を経ずに、100株等の少ない株式数を選択するケースがあります。

このようなケースでは、投資を受ける際に、株式のシェア(持ち分比率)を詳しく設定することが困難になります。この問題は、株式分割によって株式数を増やすことができますので、事後的な解決が比較的容易ではありますが、株式分割のための株主総会等の一連の手続や登記が必要となり、相応のコストが必要となってしまいます。

2 エンジェル投資家に多すぎるシェアを割り当ててしまうケース

ベンチャー・スタートアップでは、プロダクトやサービスの開発フェーズ等、会社の資金繰りが厳しい状況になることも珍しくありません。このような状況下で、いわゆるエンジェル投資家等から投資をしてもらえそうになれば、目先の資金繰りとの関係で、シェアが多すぎると思っても、投資をお願いしてしまうケースがあります。

エンジェル投資家等に多すぎる持株比率を付与してしまうと、その後、VC等の投資家に割り当てたり、従業員にストックオプションを発行する余地が少なくなる等、資本政策における自社の選択肢を狭めることにつながります。

また、エンジェル投資家が、その後の追加投資を引き受けてくれないことも考えられます。当該エンジェル投資家が追加投資を引き受けないことについて、会社の成長にフリーライドしていると評価して、VC等の他の投資家が、投資を敬遠することがあります。このような事態が生じた場合、エンジェル投資家等から株式を買い戻す等の対応が考えられますが、買取金額等の条件で合意に至らないなど、非常に難しい交渉になります。

また、このような事態が想定されることから、そもそも、エンジェル投資家が多数の株式を保有しているという事実自体に着目されて、投資を敬遠される可能性もありますので、特に会社の初期段階におけるエンジェル投資家に対する株式の割当については、慎重に検討すべきです。

3 評価を誤ってしまうケース

資金調達をする際には、必要となる調達額、調達後の持株割合等を総合的に検討することになりますが、資金調達に際し、バリュエーションを高くしすぎてしまうケースがあります。当該資金調達自体は良いかもしれませんが、次回の資金調達の際に、高すぎるバリュエーションを前提とすることになりますから、追加で出資を受けることが困難になることがあります。

また、追加での出資を受けることができたとしても、追加出資における株価が、前回の調達時の株価を下回ってしまう(ダウンラウンド)可能性もあります。投資契約では、ダウンラウンドが生じた場合の希薄化防止条項が規定されていることが多く、当該条項の発動により、経営株主のシェアが想定外に低下してしまう可能性があります。

株式の評価は複雑な要素によって決定されるものであり、簡単に評価できるものではありませんが、上記のようなリスクを踏まえたうえで、専門家等の意見を参考にしながら、慎重に検討する必要があります。

4 創業時の株式に関する設計で失敗するケース

仲間と一緒に会社を設立した場合に、数人の創業者が、同じ割合の株式を保有してしまうケースがあります。円滑に進んでいるときは良いですが、経営に関する判断が統一できない場合等に、会社としての意思決定を迅速に行うことができない状況になる可能性があります。

また、仮に、創業者の1人が、何らかの理由で退社した場合に、いつまでも株式を保有されていると、機動的な意思決定を阻害することになります。また、会社の資本政策の柔軟性も失われますし、退社後の会社の成長に関し、退社した創業者の1人がいつまでもフリーライドできることは、当該会社の役職員や投資家にとって好ましくありません。

したがって、このような場合に適切に株式譲渡を行えるよう、創業時に株主間契約を締結しておく必要があります。

5 ストックオプション

資金を潤沢に保有していないスタートアップ・ベンチャーにとっては、優秀な人材を獲得するために、ストックオプションを活用することは有用な手段です。また、経営者としては、活躍してくれている会社のメンバーに報いるために、ストックオプションを発行したい気持ちになることも理解できるところです。

もっとも、早期に、多くのストックオプションを発行しすぎてしまうと、後々、有為な人材と出会い、会社に招きたいと思ったとしても、すでに多数のストックオプションを発行してしまっており、IPOとの関係で、さらにストックオプションを発行することが難しい状況になってしまうケースがあります(※1)。

したがって、IPOのタイミングから逆算して、いつ、どのような人材に、どの程度のストックオプションを発行するのか慎重に検討する必要があります。

※1 一般に、IPO時におけるストックオプションの割合は、発行済株式総数の10~15%以内が望ましいとされています。

6 最後に

社内において資本政策を策定すれば、その後、投資の引き受け等のアクションを実行する段階になります。この段階において、投資契約書のレビュー等を弁護士等の専門家に依頼することもありますが、そもそもの資本政策に関する問題点を解決等しておくために、資本政策の策定段階において、早めに、経験のある弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
藤井 宣行

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