株主名簿の作り方は?~作成後の注意点も併せて解説~

自社の株主名簿について、正確に作成・更新されているでしょうか。

株式会社を設立する以上、ベンチャー企業や中小企業など、創業間もない場合や、会社の規模が大きくない場合であっても、株主名簿は常に正確に作成されていなければなりません。

この記事では、ベンチャー企業や、中小企業向けに、株主名簿の作り方や、作成後の注意点について、弁護士の視点から解説します。

株主名簿を作成していない会社や、株主名簿を作成しているけれども正確に作成できているか不安な会社は、ぜひこの記事をご参照ください。

1 株主名簿の重要性

株主名簿とは、会社の株主や株式に関する事項を明らかにするために作成される重要な帳簿であり、会社法上、株式会社は、株主名簿を作成しなければなりません(会社法第121条)。 株主名簿は、会社の事務処理の便宜のための書類という側面と、株主等の保護のための書類という側面を有するものだからです。

例えば、会社の事務処理の便宜という側面からは、株式会社は、株主に対してする各種の通知や催告について、株主名簿上の株主の住所に発送すれば足りるという役割を果たします(会社法第126条第1項)。

ベンチャー企業や、中小企業において、経営者の知らないところで株主に相続が発生したり、音信不通になってしまった株主がいたとしても、ひとまず株主名簿上の住所に株主総会の招集通知を発送すれば、株主総会を適法に開催することができます。

一方、株主等の保護という側面からは、株主名簿は、株式会社によって本店に備え置かれたうえで、株主、債権者および親会社社員の閲覧・謄写等の請求に供さなければならないという規定があります(会社法第125条)。

ベンチャー企業や中小企業の株主等の利害関係人は、株主名簿を閲覧することで、どの株主が会社の支配権を握っているのかなどの情報を把握することができ、自らの権利の確保や行使に役立てることができます。

株式会社が、株主名簿に必要な事項を記載せず、または虚偽の記載をしたときは、取締役(委員会設置会社では執行役)または株主名簿管理人は過料の制裁を受けるおそれがあります(会社法第976条第7号)。

加えて、株主名簿の作成後においても、会社の株主に変動があった場合等には、株主名簿の書換え等の作業が必要となります(会社法第132条~第134条など)。

この作業を怠った場合にも、前述のように、必要事項の記載漏れまたは虚偽記載として、取締役等が過料の制裁を受けるおそれがあります(会社法第976条第7号)。

株主名簿の作成に関する制裁を受けるリスクを取り除くためにも、株主名簿の作り方と、株主名簿作成後の注意点について、今一度ご確認ください。

2 株主名簿の作り方

(1)記載事項

株主名簿に記載しなければならない原則的な事項は以下のとおりです(会社法第第121条各号)。

・ 株主の氏名(または名称(法人等の場合))と、株主の住所
・ 各株主の有する株式の種類および数
・ 株式を取得した日

※株券発行会社は、上記に加えて、「株券の番号」の記載が必要です。

なお、株主名簿の形式については、書面(帳簿、カード等)の形式でなく、電磁的記録の形式で存在していても構いません。

また、相続等によって株式が共有となった場合には、共有者全員の氏名を記載する必要がある点に、ご注意ください。

これに加えて、少し特殊ではありますが、会社法においては、上記でご紹介した原則的な記載事項に加えて、追加の記載を求められる場合があります。

追加の記載を求められる場合等について、以下の表にまとめていますので、ご参照ください。

記載が求められる場合記載が求められる事項会社法上の根拠
株式に質権を設定した者が、会社に株主名簿への記載を請求した場合会社法第148条各号記載の事項会社法第148条
株式が信託財産に属する場合に、株主が会社に株主名簿への記載を請求した場合株式が信託財産に属する旨会社法第第154条の2第2項
株券発行会社の株主が、会社に株券の不所持を申し出た場合株券不所持申出があった株式にかかる株券を発行しない旨会社法第217条第3項

(2)具体的な作成例

それでは、ここで、前述した株主名簿の記載事項を踏まえて、次のような会社が存在した場合、どのような株主名簿を作ればよいかの具体例をお示しします。

 

株式会社甲山商事は、令和5年6月1日設立の非公開会社であり、株券は発行していない会社である。
甲山商事の設立時の株主は、乙川一郎(普通株式300株。)と、丙野二郎(普通株式300株。)である。
乙川一郎は、令和5年8月1日に、丙野二郎に対し、普通株式300株の全てを譲渡した 。

このような会社の場合、次のような株主名簿を作成することになります。

この株主名簿例には、株主名簿に原則的に記載しなければならない事項(株主の氏名と住所、保有株式の種類及び数、株式取得日。会社法第第121条各号)を記載しています。

また、会社の株主に変動が生じた場合には、会社法第121条各号に掲げる事項(以下、「株主名簿記載事項」といいます。)に変更が生じることとなるため、乙川一郎氏から丙野二郎氏への株式の譲渡に伴って、その旨の記載がされていることがわかると思います。

(3)株主の名義を変更すべき場合

それでは、具体的にどのような場合に、株主名簿記載事項の変更(名義書換え)が必要になるのでしょうか。

大きく分けると、
(i) 株主の請求による場合(会社法第133条、第134条)
(ii) 株主の請求によらない場合(会社法第132条)  

の2つに分類ができます。

(i) 株主の請求による場合

これは、会社以外の第三者が、会社の株式を、株式譲渡や、相続その他の事由によって取得したときに、その第三者が、その株式の株主として株主名簿に記載された者等と共同して、名義書換えを請求した場合を指します。

典型的には、前記(2)で、具体例として示した、乙川一郎氏から丙野二郎氏への株式の譲渡に伴って、乙川氏と丙野氏が共同で名義書換えの請求をするという場面です。

株主から適法な株主名簿の名義書換えの請求があったにもかかわらず、会社の従業員や経営者の過失によって名義書換えが行われていないことがあった場合には、会社は株式譲受人を株主として取り扱う必要があり、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことはできませんので、ご注意ください(最高裁判所昭和41年7月28日判決/民集20巻6号1251頁)。

他にも、株主の請求による場合には、その請求の方法(第133条第2項)や、株式が譲渡制限株式である場合の取扱い(第134条)など、検討すべき問題点も多くありますので、対応にご不安な点がある場合には、弁護士等の専門家にご相談ください。

(ii) 株主の請求によらない場合

これは、一定の場合には、株主の請求がなくても、会社は、株主名簿記載事項を、株主名簿に記載し、または記録しなければならないという会社法上のルールです(会社法第132条)。

株主名簿記載事項の記載等が必要となる場合について、以下の表にまとめていますので、ご参照ください。

株主名簿記載事項の記載等録が必要となる場合株主名簿記載事項の記載等が必要となる株主会社法上の根拠
株式を発行した場合発行した株式の株主会社法第132条第1項第1号
当該株式会社の株式を取得した場合取得した株式の株主会社法第132条第1項第2号
自己株式を処分した場合処分した株式の株主会社法第132条第1項第3号
株式の併合をした場合併合した株式の株主会社法第132条第2項
株式の分割をした場合分割した株式の株主会社法第132条第3項

例えば、会社が新株を発行した場合などには、会社は、株主の請求がなくても、株主名簿記載事項の記載等をしなければなりません。

他の手続きに気を取られて、株主名簿記載事項の記載等を怠るということが起こり得ますので、ご注意ください。

3 まとめ

株主名簿は、会社にとっても株主等の利害関係者にとっても重要な書類です。会社法上も、罰則をもってその作成が義務付けられており、正確に作成することが必要であるといえます。

会社の適切な運営のためには誰が株主であるか正確に把握することが重要です。

また、上場時の審査やM&Aにおける調査(DD)においても株主が誰であるかが株主名簿に記載されており、正しい株主や移動状況が反映されていることは非常に重要なポイントです。

株主名簿に関する罰則を科せられるリスクを軽減するために、株主名簿をまだ作成していないという会社や不正確・不十分な株主名簿しか保有していない会社は、この記事の本文で紹介した株主名簿の作り方や、具体的な作成例をご参照ください。

また、株主名簿は一旦作成したとしても、それで終わりというわけではありません。会社法上に規定がある一定の場合には、株主名簿記載事項の記載等が必要となります。

この点についても、会社の株主名簿に記載の漏れがないかをチェックするようにしてください。
株主名簿の作り方や、作成後の運用についてご不安のある方は、弁護士等の専門家にご相談ください。

執筆者
S&W国際法律事務所

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