株主ではない弁護士の株主総会への代理出席を拒絶してよいのか?

会社の定款規定により、株主総会への議決権行使の代理人を株主に限定する場合が多いです。このような定款がある場合にも、株主ではない弁護士の代理権行使を拒否することが違法とされ、株主総会決議が取り消される場合があるため、注意が必要です。

本ブログでは、代理人弁護士による議決権の代理行使の拒絶を違法と判断した東京地裁令和3年11月25日判決(判例タイムズ1503号196頁)を中心的に紹介しながら、会社の対応策を検討します。

1 代理人を株主に限定する定款規定の有効性と限界

(1)議決権の代理行使の法的根拠

会社法上、株主は、代理人によって議決権を行使することができます。この趣旨は、株主の議決権行使の機会の実質的な保証であり、定款によっても代理人による議決権行使自体を禁止することはできません。

(議決権の代理行使)
会社法第三百十条 
株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。

(2)代理人資格を株主に限定する定款規定の有効性

最高裁第二小法廷昭和43年11月1日判決(民集22巻12号2402頁、以下「昭和43年最判」といいます。)は、

(当時の商法第239条第3項〔現在の会社法第310条第1項〕)は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解され(ない)。

と判示し、議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限する旨の定款の規定は、有効であるとしています。

(3)株主以外の議決権行使が認められた判例

最高裁第二小法廷昭和51年12月24日判決(民集30巻11号1076頁、以下「昭和51年最判」といいます。)は、

株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合においても、株主である地方公共団体、株式会社が、その職制上上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使にあたって法人の代表者の意図に反することができないようになっている職員又は従業員に議決権を代理行使させることは、右定款の規定に反しない

旨を判示しました。

その理由として、

右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえって、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。

と説示しています。

2 東京地裁令和3年11月25日判決について

(1)事案の概要

被告の株主である原告が、被告の定時株主総会(本件総会)について、決議の方法が法令及び定款に違反している(会社法第831条第1項第1号)と主張して、その取消しを求めた事案です。

被告は、非公開会社(会社法第2条第5号)で、定款をもって議決権行使の代理人の資格を被告の株主に限る旨を定めていました(本件規定)。

本件の争点は、原告の代理人であるA弁護士による議決権の行使を認めなかった点に、決議方法の法令違反が認められるか否かでした。

原告は、持病等が原因で本件総会に出席できず、代理人によって議決権を行使する必要があったが、被告の株主の中から代理人を選任することはできず、本件総会を攪乱するおそれがないA弁護士を代理人として本件総会に出席させて議決権の行使をさせようとしたにもかかわらず、被告がこれを拒否したことは、原告の議決権行使を妨害したものであるから、決議方法に法令違反があると主張しました。

被告は、A弁護士を代理人とすべき必要性はなく、また、A弁護士は原告の長男の指示に基づいて代理人活動を行っていたため、原告の長男がA弁護士による議決権行使を主導して実質的に被告の経営に関与することにより、本件総会が攪乱されるおそれがあったと主張しました。

裁判所は、A弁護士による議決権の代理行使を拒否したことは、会社法第310条第1項に違反し、決議方法の法令違反にあたるとして、本件総会決議の取消しを認めました。

(2)裁判所の判断について

裁判所は、会社法第310条第1項違反に当たる場合について、以下のように判示しました。

株主が、非公開会社に対し、代理人として弁護士に議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出たときは、当該弁護士に議決権を代理行使させることを拒否することは、株主総会が当該弁護士により攪乱され当該非公開会社の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情のない限り、会社法310条1項に違反する。
 
∵①弁護士は、相当高度の法律的素養を有すること(弁護士法2条、4条、5条参照)、職務執行に当たり、委任契約から生ずる善管注意義務(民法644条)等を負うだけでなく、基本的人権を擁護し、社会正義を実現するとの使命に基づき(弁護士法1条1項)、当事者の利益を保護し、弁護士の信用、品位等を保持すること等が求められること(同法2条、3条、25条等参照)から、弁護士が当該株主の意図に反する行動をすることは、通常想定されない。

 ②非公開会社においては、会社にとって好ましいと判断される株主によって構成されることが予定され、会社と対立する株主と他の株主との間で、株主総会の議案につき見解の対立を生じるなどしたときは、議決権の行使を委任するに足りる信頼関係が損なわれることも想定される。

➡ 定款の定めのみを理由に議決権の代理行使を拒否することができるとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすといわざるを得ない。

裁判所は以上のような規範を示したうえで、以下のような具体的判断を示しました。

次の(ア)~(オ)など判示の事情の下においては、A弁護士が専ら原告の長男らの意向に基づいた言動に及ぶなどして本件総会を攪乱させ当該会社の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情があったとはいえず、会社法第310条第1項に違反する。

(ア)被告の株主は、原告、原告の兄弟2名、取引関係者3名及び従業員持株会の7名であった。
(イ)被告は、本件総会以前の株主総会の際には、原告の代理人であるA弁護士から事前の申出があったことを踏まえて、原告の代理人として当該弁護士の出席を認め、議案について質問をさせ、議決権の代理行使を認めており、議事進行の混乱等の事態は生じなかった。
(ウ)被告は、本件総会の直近の株主総会の際には、原告の代理人である弁護士からの事前の申出があったにもかかわらず、定款の本件規定のみを理由にその出席を拒否し、当該株主総会で審議された原告に対する退職慰労金贈呈の件については、出席株主の一致により否決された。
(エ)原告は、本件総会の会日の約1週間前に、①原告自身の出席が困難であること、②原告が原告以外の株主と意見を異にしていること等を理由に、本件総会にその代理人として弁護士を出席させ、当該弁護士に議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出た上、更に上記①の事情を示す医師作成の診断書や原告が署名押印した委任状を送付していた。
(オ)被告は、本件総会の会日の前日に至って、定款の本件規定を理由に、原告の申出に係る弁護士の出席を拒否し、他の株主が自動車により原告の送迎を行うことを提案している旨を伝えるにとどまった。

(3)小括

 本判決のポイントは以下のとおりです。

  • 会社法第310条第1項は、昭和43年最判が判示するとおり、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の定めにより、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されない。
  • 一方、昭和51年最判によれば、代理人資格を制限する定款の規定も、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれがなく(要素①「攪乱のおそれ」)、議決権の代理行使を否定することが事実上議決権行使の機会を奪うに等しいとき(要素②「行使機会の奪取」)は、合理的な理由による相当程度の制限(昭和43年最判)とはいえず、その効力が否定されることになる。
  • 本判決は、弁護士が職務上負っている義務内容から、攪乱のおそれ(要素①)を特段の事情がない場合を除き否定し、非公開会社において他の株主との間で株主総会議案につき見解の対立が生じた場合に、株主ではない第三者に議決権行使を委ねられないとすれば、事実上議決権行使の機会を奪うに等しい(要素②)。

3 その他の裁判例の傾向について(弁護士を代理人とする議決権行使の拒否を違法としたもの)

(1)① 神戸地裁尼崎支部平成12年3月28日判決(判タ1028号288頁)【上場会社】

本件総会へ出席を委任された者が弁護士であることからすれば、受任者である弁護士が本人たる株主の意図に反する行動をとることは通常考えられないから、株主総会を混乱させるおそれがあるとは一般的には認め難いといえる。したがって、右申出を拒絶することは、本件総会がこの者の出席によって攪乱されるおそれがあるなどの特段の事由のない限り、合理的な理由による相当程度の制限ということはできず、被告定款一三条の規定の解釈運用を誤ったものというべきである。そこで、右特段の事由の有無について検討する。
 被告は、右特段の事由として、代理人として選任された者の個性によって取扱いを変えるということでは、総会を開催するに際しての事務処理が極めて煩雑となり、総会の開催が混乱するおそれがあり、そのような実務上の混乱を生じるような取扱いをすることは相当ではないことを挙げる。
 しかしながら、本件においては、前示のとおり、原告は、被告に対し、本件総会に先立ち、自己の選任した代理人の氏名及び職業を委任状と共に被告に告知していたのであるから、被告としては、本件総会当日に、代理人たる弁護士に対して、代理人自身の身分・職務を証明する書類の提示を求めて、右代理権の有無、代理人の同一性を確認し、その上で会場への入場を認めるという取扱いをすれば足りたのであって、右手続の履践が本件総会を開催するに際しての事務処理を著しく煩雑にし、総会の開催を混乱させることになったと認めるに足りる証拠はない。
 そうすれば、被告には、本件総会の開催にあたり、原告の代理人による議決権の行使を拒絶するに足りる特段の事由があったとはいえない。

➡ 攪乱のおそれ(要素①)がないことを重視していると考えられます。

(2)② 札幌高裁令和元年7月12日判決(金判1598号30頁)

控訴人代表者は、被控訴人津軽海峡フェリーの委任状を持参した被控訴人津軽海峡フェリーの代理人である緒方弁護士と面識があり、株主総会の受付において、同人が弁護士であり株主総会攪乱のおそれがないことを容易に判断できたというべきである。議決権行使の重要性に鑑みると、本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない。それにもかかわらず、控訴人は、届出印の印影と本件委任状に顕出されている印影の不一致を理由に被控訴人津軽海峡フェリー代理人である緒方弁護士の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令(会社法310条1項)違反があったといわざるを得ない。

➡ 攪乱のおそれ(要素①)がないことを重視していると考えられます。

4 まとめ

株主の代理人資格を制限する定款規定がある場合には、その規定を厳格に運用し、非株主による議決権の代理行使を一律に認めないとする実務が定着しています。

上場会社の株主総会においては、不特定・多数の株主が来場し、円滑に受付事務を行う必要性が高いこと、発行会社が個別の一般株主やその代理人の属性・事情について知っている場合は稀であることを考慮すると、このような厳格な運用も一定の合理性があります。

一方で、本ブログで紹介した判例・裁判例を踏まえると、以下の1~3の場合には、代理人の株主総会への出席及び議決権行使を拒否すると、当該株主総会決議が取り消される危険性が高いため、代理人による議決権行使は受け入れざるを得ないと考えられます。

  1. 法人株主の従業員が代理人として来場した場合
  2. 発行会社が非公開会社である場合に、株主から「非株主である弁護士が議決権の代理行使を行う」旨の通知をあらかじめ受けた場合
  3. 発行会社が小規模会社で、会社や経営陣が、その株主や代理人の属性・事情をよく知っているなどの事情がある場合

上記の場合に、仮に、議決権の代理行使を拒否するとの選択を採る場合には、事前に、当該決議の取消しが会社運営に与えるリスクを十分に検討しておく必要があります。

なお、非株主の議決権行使の制限については、本ブログで取り上げた他にも、多数の裁判例が存在しており、様々な個別的事情を考慮し判断がされています。

思いもよらない事情が判断に重要な影響を与える場合もあるため、代理人の議決権行使への対応に不安を感じられた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

執筆者
アソシエイト/弁護士
中村 孝宏

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