スタートアップが定款を作成するときに検討すべきポイント

会社を設立するには、必ず定款を作成しなければなりません。

では、定款にはどのような事項を記載すればよいのでしょうか。また、定款を作成した後、会社設立までどのような手続きを踏めばよいのでしょうか。

定款作成の際に、悩みやすい点を分かりやすく解説します。

1 定款とは?

定款とは、会社などの組織や運営に関する根本規則のことを意味します。
会社の最も重要なルールという意味で、「会社の憲法」と呼ばれたりもします。

株式会社を設立するにあたっては、定款を作成することが必須であり、株式会社の設立者である発起人が作成し、発起人全員がこれに署名し、又は記名押印することが必要です(会社法第26条第1項)。

2 定款の記載事項

定款の記載事項には、大きく分けて、「絶対的記載事項」、「相対的記載事項」、及び「任意的記載事項」があります。以下、それぞれ簡単に解説します。

(1)絶対的記載事項

絶対的記載事項とは、定款に必ず記載することが必要な事項であり、その記載を欠くか、その記載が違法であるときは、定款全体が無効となり、ひいては、会社の設立が無効となってしまいます。

絶対的記載事項としては、①会社の事業目的、②会社の商号、③会社の本店所在地、④会社の設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、⑤発起人の氏名または名称および住所が挙げられます(会社法第27条)。

なお、⑥会社が発行することができる株式の総数(発行可能株式総数)も定款に定めるべき事項ですが、これについては、定款作成時に定める必要はなく、遅くとも会社成立の時までに定めればよいとされています(会社法第37条第1項)。したがって、⑥については、設立過程における株式の引受け状況や失権状況を見極めながら定めることができます。

(2)相対的記載事項

相対的記載事項とは、定款に記載を欠いても、定款の有効性には関係がありませんが、定款に記載しておかなければ、その事項について効力が生じないものをいいます。

(3)任意的記載事項

任意的記載事項とは、定款に記載を欠いても、定款自体の有効、無効とは関係なく、また定款に記載しておかなければ、その事項について効力が生じないわけではありませんが、取扱いを明確化するため等の理由により定款に記載される事項をいいます(会社法第29条)。

3 悩みやすいポイント

(1)本店所在地をどこまで記載するか

本店所在地は、「東京都●区」「大阪府大阪市」といった形で留める場合と、「東京都●区●1-2-3 ●ビル●階」と詳細に記載する場合があります。どこまで詳細に記載すべきかについては、本店の所在する最小行政区画、すなわち市町村(東京都の特別区においては区)まで記載すれば足りるとされています。なお、本店の住所をそのまま記載することも可能です。

また、本店移転には登記が必要であり、あまり細かいと、同じ管轄内で移動するだけで、定款変更と登記申請が必要になるため、「東京都●区」「大阪府大阪市」といった形で留めた方が煩雑でなくてよいでしょう。

(2)取締役会を設置するか

公開会社でない会社の場合、取締役会の設置は任意です(会社法第326条第2項、同法第327条第1項)。

取締役会を設置するか否かは、株主総会に大きな権限を残すか、取締役会に権限を与えるかという点で大きく異なります。すなわち、取締役会を設置していない会社では、株主総会は、会社法で株主総会の権限とされている事項のほか、株式会社に関する一切の事項につき決定権限がありますが(会社法第295条第1項)、取締役会を設置する会社では、株主総会は、会社法で株主総会の権限とされている事項及び定款所定事項についてのみ決定権限を有することになります(同条第2項)。

したがって、少数の株主が経営をコントロールし、自由な規律を望むのであれば、取締役会を設置しない方向に、取締役による起動的な経営を確保し、厳密なガバナンスを採用するのであれば、取締役会を設置する方向に考えるべきでしょう。

また、取締役会を設置する場合は、取締役は3人以上必要であり、監査役(又は会計参与)の設置も必要です。取締役3名のうち1名が辞任したい場合であっても、後任の取締役が選任されるまでは、その取締役は取締役としての権利義務を負い続けることになり(会社法第346条第1項)、辞任登記もできません(最高裁判所第3小法廷昭和43年12月24日判決、民集22巻13号3334頁参照)。そのため、取締役の員数について、常に配慮が必要になります。

(3)発行可能株式総数を何株とするか

発行可能株式総数は、公開会社でない会社の場合、設立時に発行する株式との関係で、特段ルールはないため※、設立時発行株式と同じ数でも、その100倍の数でも、問題ありません。ただし、発行可能株式総数に余裕がないと、新たに発行できる株式の数が少なくなってしまい、それ以上に発行したい場合に、定款変更・変更登記をしなければならず、煩雑です。したがって、発行可能株式総数は多く規定しておくに越したことはないでしょう。

※ 公開会社の場合、発行可能株式総数が、設立時発行株式数(株式発行後に定款を変更する場合は、発行済株式数)の4倍以下でなければならないというルールがあります(会社法第37条第3項、同法第113条第3項)。

(4)相続人等に対する売渡請求

会社が相続その他の一般承継により会社の株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款に定めることができます(会社法第174条)。これを規定することにより、会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐことができるというメリットがあります。

公開会社でない多くの会社にとって、有利な規定となるでしょう。

(5)自己株式の取得における売主追加請求権の排除

会社法上、会社が株主総会の決議によって特定の株主からその有する株式の全部又は一部を取得する場合、会社は、他の株主に対してその旨通知しなければならず(会社法第160条第2項)、また、当該特定の株主以外の株主は、自己を売主に追加することを請求することができる(同条第3項)旨定められています。

これが適用されると、会社は、株式を買い取ろうとした相手以外の株主からも株式を買い取らなくてはならなくなり、特定の株主のみから株式を買い取ろうとした会社にとっては、大きな障害になってしまいます。

そこで、かかる事態を避けるために、定款に、上記売渡請求権等を排除する旨を定めることが望ましいです(会社法第164条第1項)。なお、株式発行後に、上記売渡請求権等を排除するために定款を変更するには、当該株式を有する株主全員の同意が必要となるため(会社法第164条第2項)、定款作成時に定めておくことをお勧めします。

(6)株式の割当てを受ける権利等の決定

いわゆる株主割当増資の意思決定機関を、株主総会とするのではなく、取締役会(取締役会設置会社の場合)又は取締役の決定(取締役会設置会社以外の場合)とすることが可能です(会社法第202条第3項。新株予約権は同法第241条第3項)。支配権争いや少数株主の影響力を薄める目的がある場合に、株主割当増資が活用できる場合があるため、株主割当増資の意思決定機関を取締役会又は取締役の過半数とする規定を入れておくことが考えられます。

(7)募集株式及び募集新株予約権の割当て並びに総数引受契約の承認

取締役会非設置会社については、株式発行や新株予約権の発行の際、株主総会で授権決議を行い、取締役の決定で、一定の枠内の株式を第三者に割り当てたり、総数引受契約を締結したりする場合には、定款の規定が必要です(会社法第204条第2項、同法第205条第2項、同法第243条第2項、同法第244条第3項)。

(8)その他の留意点

  • 株主総会の基準日については、規定しておいた方がよいでしょう。
  • スタートアップの場合、株主総会の招集期間は短くしておいた方がよいです。3日や1日といった例も見られます。
  • 株主総会の議決権行使は、株主に限定している会社が多いです。この規定の効力に限界がある点、ご留意下さい。(詳細はこちらのブログをご参照ください。)
  • 取締役の任期は2年とすることが多いですが、改選が煩雑という理由で10年といった年数にすることも少なくありません。
  • 社外取締役や社外監査役を設置する場合は責任免除規定を定めることになります。
  • 設立直後の事業年度は、基本的には長くなるようにすることが多いです。確定申告までの期間を長くすることが理由です。
  • 取締役会非設置会社は、中間配当はできませんので、ご留意下さい。

4 定款作成から会社設立までの流れ

これまで、定款の意義や作成方法について見てきました。
以下では、定款を作成後、どのような手続きを経て会社設立に至るのかをご説明します。

(1)定款の作成

発起人が定款を作成し、発起人全員がこれに署名し、又は記名押印します(会社法第26条第1項)。

(2)定款の認証

会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人の認証を受けます(会社法第30条)。
⇒ 公証人による認証を受けることで、後の定款の紛失や改ざん等のリスクを回避することができます。

なお、令和4年1月1日以降の認証手数料は以下のとおりです。

  • 資本金100万円未満:30,000円
  • 資本金100万円以上300万円未満:40,000円
  • 資本金300万円以上:50,000円

(3)法人登記

法務局で法人登記を行います。そして、法人登記を申請した日に、晴れて会社が成立します。
⇒ 法人登記を行うことで、会社の概要を公表して社会的な信用維持または取引の安全を図ることができます。

5 最後に

上記で見てきたように、定款は、会社にとって非常に重要なものであるとともに、その記載内容については、各会社の事情に合わせた慎重な検討が必要になると考えられます。

定款作成にあたり、お困りごとがある場合は、お気軽に弊所にお問い合わせください。

執筆者
アソシエイト/弁護士
藤岡 茉衣

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