2023年4月1日施行!改正労働基準法及び育児介護休業法について

労働基準法及び育児介護休業法の改正法が2023年4月1日に施行されました。

労働基準法の改正については、従業員の給与の算定及び支払方法に関する改正であり、実務上も大きな影響があるものと思われます。また、少子化が深刻な社会問題となっている中、今回の改正で公表が義務付けられた育児休業の取得状況は、社会的に大きな注目を集めるかもしれません。

本記事では、同改正の内容についてご説明いたしますので、会社として対応が不足している点がないかご確認ください。

【この記事のポイント】

  • 中小企業においても、2023年4月1日以降の労働時間については、月60時間を超える時間外労働については50%の割増率で割増賃金を支払う必要がある(目次1(1))。
  • 企業が労働者に代替休暇を与えた場合には、60時間超の法定時間外労働のうち、引上げ分(25%分)の割増賃金を支払う必要がなくなる(目次1(3))。
  • 就業規則の変更等の費用を補助する助成金がある(目次1(4)及び(5)
  • 労働者の同意を得たうえで、一定の要件を満たした場合には、労働者の資金移動業者の口座(PayPay、LinePay、auPayなど)への賃金支払を可能とすることとされた(目次2(1)及び(2))。
  • 資金移動業者がデジタルマネーによる給与の支払を取り扱うためには、厚生労働大臣から指定資金移動業者として指定を受ける必要がある(目次2(3))。
  • 常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主について、毎年1回以上育児休業の取得状況を公表することが義務付けられた(目次3)。

1 時間外労働の割増賃金

(1)概要

労働基準法上、1日8時間・1週40時間を超える時間外労働に関する割増賃金は、月60時間までの時間外労働については25%、月60時間超の時間外労働については50%の割増率とされています(労働基準法第37条第1項)。

そして、月60時間超の時間外労働について50%の割増率とする規定については、労働基準法の附則により、中小企業への適用が猶予されている状況でしたが、2023年4月1日以降は、中小企業にもこの規定が適用されることとなりました。

つまり、中小企業においても、2023年4月1日以降の労働については、月60時間を超える時間外労働には50%の割増率で割増賃金を支払う必要があります。

なお、ここでいう中小企業とは、下記の表の①または②に該当する企業を指します。

(中小企業に該当する場合)

業種① 資本金額または出資の総額② 常時使用する労働者の数
小売業5000万円以下50人以下
サービス業5000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他3億円以下300人以下

(2)深夜・休日労働の取扱い

深夜・休日労働に関連する割増賃金の算定方法を確認すると、月60時間を超える時間外労働を深夜の時間帯に行わせた場合の割増率は、深夜割増25%(労働基準法第37条第4項)+ 時間外割増50%=75%となります。

休日労働との関連では、法定休日(労働基準法第35条第1項に基づき、法律上週に一度必ず労働者に与えなければならないとされている休日)に行った労働時間は、月60時間の時間外労働時間の算定に含まれず、別途休日労働の対価として35%の割増賃金を支払うことになります。他方で、所定休日(法定休日以外に企業が労働者に与える休日)に行った労働時間は、月60時間の時間外労働時間の算定に含まれることになります(法律上、休日割増賃金の対象は法定休日のみとされている点にご留意ください。)。

(それぞれの場合の法定割増率)

法定割増率
深夜かつ60時間超深夜割増25%+時間外割増50%=75%
法定休日休日割増賃金35%(時間外労働時間の算定に含まない)
所定休日時間外労働時間の算定に含まれるため、60時間までであれば25%、60時間超であれば50%(休日割増賃金の支払は不要)

(3)代替休暇

ア 概要

月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、企業は、引上げ分の割増賃金の支払に代わり、有給休暇(代替休暇)を労働者に付与することも可能とされております(労働基準法第37条第3項)。

企業が労働者に代替休暇を与えた場合には、月60時間超の法定時間外労働のうち、引上げ分(25%分)の割増賃金を支払う必要がなくなります。

代替休暇の制度は以前から法定されておりますが、この度の改正で中小企業においても、代替休暇の付与を検討する場面が出てきますので、以下では代替休暇についても解説いたします。

イ 代替休暇を付与する際の手続

まず、代替休暇を付与する際の手続について説明いたします。

少しわかりにくいかもしれませんが、次の項目で具体例を記載いたしますので、具体例の記載と見比べながらご確認ください。

代替休暇を与える場合、まずは労使協定において、①代替休暇として与えることができる時間の算定方法、②代替休暇の単位、③代替休暇を与えることができる期間を定める必要があります(労働基準法施行規則第19条の2第1項)。

上記①については、(1ヵ月の法定時間外労働の時間数-60時間)×換算率で算定いたします(同規則第2項)。
換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合の60時間超部分の割増賃金率(50%以上)- 代替休暇を取得した場合の割増賃金率(25%以上)を意味しています。

そして、代替休暇を与えた場合、「取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間」について50%超の割増賃金が不要となります(同規則第3項)。

上記②については、代替休暇の単位は1日又は半日の単位とすべきとされ、代替休暇以外の通常の賃金が支払われる休暇(有給休暇など)を合わせて1日または半日を取れるようにしてもよいとされています(平成21年5月29日基発0529001号)。

上記③について、代替休暇を与えることができる期間は、当該60時間を超える時間外労働が行われた月の後の2カ月以内とされています(労働基準法施行規則第19条の2第1項第3号)。

上記のほか、代替休暇の取得日の決定方法及び割増賃金の支払日も労使協定で定めるべき事項とされています(平成21年5月29日基発0529001号)。

また、労使協定により代替休暇を実施する場合、代替休暇に関する事項を就業規則にも記載する必要があること(労働基準法第89条第1号、第2号)、代替休暇を取得するか否か、いつ取得するかは労働者側が決定することができること(平成21年5月29日基発0529001号)にもご留意ください。

ウ 具体例

1ヵ月の法定時間外労働を80時間、割増賃金率を法定のとおり、月60時間までの時間外労働について25%、月60時間超の時間について50%と設定のうえ、具体的な計算方法を確認します。

この場合、換算率は25%(50%−25%)となりますので、代替休暇として与えることが可能な時間は、20時間(80時間-60時間)×25%(換算率)=5時間となります。

そして、5時間の代替休暇を労働者に取得させた場合、引上げ分の割増賃金を支払う必要がなくなるのは、「取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間」であるため、5時間(取得した代替休暇の時間数)÷25%(換算率)=20時間について、引上げ分である50%相当分の割増賃金を支払う必要がなくなります。ただし、通常の25%相当分の割増賃金は支払う必要があるのでご留意ください。

(上記具体例における割増賃金)

代替休暇を与えない場合代替休暇5時間を与えた場合
60時間までの時間外労働25%の割増賃金25%の割増賃金
60時間超(80時間まで)の時間外労働50%の割増賃金25%の割増賃金

(4)就業規則の変更

賃金の計算方法は就業規則の必要的記載事項であるため(労働基準法第89条第2号)、これまで法定のとおりの割増賃金率としてきた中小企業においては、割増賃金率の引上げに合わせて、就業規則の変更も必要となります。
就業規則の記載例については、厚生労働省作成のリーフレットをご参照ください。

(5)助成金等

上記(4)の就業規則の改正に関する費用等、働き方改革に関連する環境整備に必要な費用の一部を国が助成する制度として、働き方改革推進支援助成金があります。

詳細については、厚生労働省のHPまたは本改正に関する厚生労働省作成のリーフレットをご参照ください。

2 デジタルマネーによる給与の支払

(1)概要

労働基準法上、賃金の支払は原則として、「通貨」によって支払わなければならない(労働基準法第24条第1項)とされております。

もっとも、労働者が同意した場合には、賃金を従業員の指定する「銀行口座」または「証券総合口座」に振り込むことが認められており(労働基準法施行規則第7条の2)、実際に多くの企業において銀行口座への振込の方法で賃金の支払がなされています。

そして、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られることから、労働者の同意を得たうえで、一定の要件を満たした場合には、労働者の資金移動業者の口座への賃金支払を可能とすることとされました(同規則第1項第3号)。

上記のとおり、原則は通貨による支払なので、会社は労働者から求められても給与をデジタルマネーで支払う義務はありません。他方、デジタルマネーによる支払は労働者の同意がいるため、会社が一方的に給与の支払方法をデジタルマネーに変更することもできません。

(2)対象となるデジタルマネーの種類

今回の改正で給与支払の対象とされたデジタルマネーは、資金移動業(決済だけでなく、送金や出金を可能とするデジタルマネーを発行する)の類型が対象とされており、PayPay、LinePay、auPayなどが含まれます。

他方で、出金、送金ができない第三者型前払式支払手段(Suica、nanacoなど)や、現金化できない仮想通貨などは対象外とされています。

(3)資金移動業者

資金移動業者とは、資金決済法に基づき、内閣総理大臣(財務局長に委任)の登録を受けることで、為替取引を行うことができる事業者(資金決済法第2条第3項、第37条)をいいます。

資金移動業者がデジタルマネーによる給与の支払を取り扱うためには、資金決済法第36条の2第2項に指定する第2種資金移動業(少額として政令で定める額以下の資金の移動にかかる為替取引のみを業として営むこと)を営む資金移動業者であって、厚生労働大臣から指定資金移動業者として指定を受ける必要があります。

指定を受けるための要件(労働基準法施行規則第7条の2第1項第3号)は下記のとおりです。

  1. 口座残高が100万円を超えることがないようにするための措置、または100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること
  2. 破綻等した場合に、口座残高の全額を速やかに弁済できる仕組みを有していること
  3. 第三者の不正利用等に関して、その損失を補償する仕組みを有していること
  4. 最後に口座残高が変動した日から、少なくとも10年間は口座残高が有効であること
  5. 資金移動が1円単位でできること
  6. ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができること
  7. 業務の実施状況および財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること
  8. 1から7の他、賃金の支払にかかる業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること

なお、指定された資金移動業者一覧は厚生労働省ウェブサイトに掲載される予定であり、PayPay株式会社などがすでに指定申請を提出済みのようですが、厚生労働省の審査には数か月かかる見込みのようであり、現時点では指定を受けた資金移動業者はありません。

詳細については、厚生労働省作成のリーフレットをご参照ください。

(4)導入手続

賃金の支払方法は就業規則の必要的記載事項であるため(労働基準法第89条第2号)、デジタルマネーによる給与支払を行う場合には、就業規則の変更が必要となります。

また、①口座振込等の対象となる従業員の範囲、②口座振込等の対象となる賃金の範囲およびその金額、③取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲、④口座振込等の実施開始時期を定めた労使協定の締結も必要とされております(令和4年11月28日基発1128第4号)。

そのうえで、対象となる労働者に、銀行預金への振込等による賃金支払も選択することができるようにし、上記(3)記載の1~6の事項を説明したうえで、個別同意を得る必要があります(労働基準法施行規則第7条の2第1項)。個別同意については、「書面」または「電磁的記録(電子メールなど)」による必要があります(令和4年11月28日基発1128第4号)。同意書の様式が公開されておりますので、ご参照ください。

3 育児・介護休業法の改正

(1)改正の趣旨、経緯

育児・介護休業法については、出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするために、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講ずるための法改正がなされ(令和3年法律第58号)、順次施行されてきました(厚生労働省「令和3年改正法の概要」参照)。

(2)育児休業の取得状況の公表義務付け

2023年4月1日から施行される改正も上記(1)の改正によるものであり、常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主について、毎年1回以上育児休業の取得状況を公表することが義務付けられました(育児介護休業法第22条の2)。

具体的には、①男性の育児休業等の取得率または②男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率のいずれかを公表する必要があります(同法施行規則第71条の4)。

取得率の算定期間は公表を行う日の属する事業年度(会計年度)の直前の事業年度であり、インターネット等、一般の方が閲覧できる方法で公表する必要があります。

そのほか、厚生労働省作成のリーフレットによくある質問等が整理されておりますので、ご参照ください。

4 最後に

本記事では、2023年4月1日施行の労働基準法及び育児介護休業法の改正内容についてご説明いたしました。

賃金の計算方法や支払に関する対応は労働者との紛争が生じやすく、就業規則等で適切にルールメイキングをしておく必要があります。また、育児休業についても、従業員が育児休業を取得しやすい環境を整えることが社会的にも要請されておりますので、適切な社内環境を整える必要があります。

いずれも会社にとって重要な事項でありますので、これらの対応に不安がある場合には、お気軽にご相談ください。

執筆者
シニアアソシエイト/弁護士
宮本 庸弘

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