ステルスマーケティングに対する法規制と規制対応への3ステップ

1 はじめに(いわゆるステマ規制の概要)

(1)指定告示と運用基準

いわゆるステルスマーケティングに対する法規制として、景品表示法の不当表示に関する指定告示が施行されます。

令和5年10月1日に、

景品表示法第5条第3号に基づく告示
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)

が施行される予定であり、この指定告示の運用基準として、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準が策定されました(以下、この告示を指定告示、この運用基準を運用基準といいます。)。

指定告示:https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_02.pdf
運用基準:https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_03.pdf

(2)規制の概要

規制されたのは、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難な表示を使った商品や役務の取引です。
これには、ステルスマーケティング、不正レビュー(やらせレビュー)が含まれます。ただし、自主的な意思に基づく投稿や、広告と番組が切り離された表示などは対象外です。規制の対象は広告主側の企業であり、インフルエンサーは対象外となります。

規制対象となる表示は、事業者が自ら行う表示で第三者が表示しているかのように誤認させるものや、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合です。ただし、第三者が客観的な状況に基づき、自主的な意思で行う表示は対象外です。

適切な表示内容としては、事業者の表示を明瞭にする文言や、一般消費者にとって明瞭である表示が求められます。また、広告と番組が切り離されている表示や、事業者自身のウェブサイトやSNSアカウントなどは規制対象外とされています。

2 景品表示法及び指定告示の内容

景品表示法第5条第3号及び指定告示によると、令和5年10月1日以降、事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示であって、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

はしてはならないことになりました。

これに違反する行為がある場合は、差止め等の措置命令の対象になる可能性があり、措置命令に違反した者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

3 運用基準の内容

(1)何が規制されたのか

では、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示であって、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」とは、何を意味するのでしょうか。

報道によると、

ネットやテレビ、新聞といったすべての媒体で、消費者に広告かどうかを明示するために、例えば「広告」「宣伝」「PR」などといった表示を求めていて、周りの文字と比較して小さく表記されるなど不明瞭な場合は不当表示に該当する。

NHK『「ステルスマーケティング」景品表示法の禁止行為に指定』令和5年(2023年)3月28日 17時13分

ネットの通販サイトなどで何らかの対価と引き換えに高評価をつけるなどするいわゆる「不正レビュー」、または「やらせレビュー」についても規制の対象とする。

NHK『「ステルスマーケティング」景品表示法の禁止行為に指定』令和5年(2023年)3月28日 17時13分

サンプル商品などをもらっていても自主的な意思に基づく投稿と判断されれば規制対象にはならない。

日本経済新聞『「ステマ」法規制へ 消費者庁、広告主を行政処分』令和4年(2022年)12月27日 11:00)

テレビCMのように、広告と番組が切り離された表示を行なう場合は告示の対象外となる。

ImpressWatch「ステマ、10月から法規制」臼田勤哉 令和5年(2023年)3月28日 20:03

規制の対象は広告主側の企業で、インフルエンサーなどは対象外となる。

ImpressWatch「ステマ、10月から法規制」臼田勤哉 令和5年(2023年)3月28日 20:03

とされています。

以下、詳しく見ていきましょう。

(2)規制の対象となる表示

外形上、第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に該当する場合が、規制の対象です。

① 事業者が自ら行う表示で、事業者が自ら表示しているにもかかわらず第三者が表示しているかのように誤認させる表示は、規制対象です。

(例)
A社の従業員がSNSで、「このA社の新商品〇〇を使ったけど、とてもいい!」とか、「△△(商品ジャンル)で、使い勝手を比較してみた! 1位 A社の商品〇〇 2位 ・・・」といった発信をする場合は、規制対象となるでしょう。

② 事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合やある程度関係性がある場合も、規制対象となり得ます。

(例)
A社の社長が友人に依頼して、SNSで「このA社の新商品〇〇を使ったけど、とてもいい!」とか、「△△(商品ジャンル)で、使い勝手を比較してみた! 1位 A社の商品〇〇 2位 ・・・」といった発信をしてもらう場合や、ECサイトのレビューで「この商品は今まで使ったどの商品よりも使い勝手が良く、絶対買うべきアイテムです!」といった投稿をしてもらう場合は、規制対象となるでしょう。

ただし、第三者が自らの嗜好等により、特定の商品又は役務について行う表示であって、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、事業者の表示ではないので、規制対象ではありません。実際には、頼んでいたり、対価があったり、バーターとなる取引があったりするのに、自主的な意思による表示であることを装うことや、「(対価はもらっているものの)実際に使っていて良かったことは事実であり嘘はついていないから自主的な意思である」との主張は通用せず、規制対象であることは留意してください。

以下のような場合は、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」として規制対象外であると考えられています。

  第三者が事業者の商品又は役務について、SNS等に当該第三者の自主的な意思に基づく内容として表示(複数回の表示も含む。)を行う場合。

  事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。

  アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合。

エ  ECサイトに出店する事業者の商品を購入する第三者が、自主的な意思に基づく内容として当該ECサイトのレビュー機能を通じて、当該事業者の商品等の表示を行う場合。

オ  ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合。

  第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づく内容として当該SNS等に表示を行う場合。

  事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、当該第三者の表示を恣意的に抽出すること(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)なく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えること(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)なく、そのまま引用する場合。

  事業者が不特定の第三者に対して試供品等の配布を行った結果、当該不特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。

  事業者が特定の第三者(例えば、事業者が供給する商品又は役務について会員制(一定の登録者に対して一定の便益を付与する制度等)を設けている場合における会員)に対して試供品等の配布を行った結果、当該特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。

  事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に対して表示を行わせることを目的としていない商品又は役務の提供(例えば、単なるプレゼント)をした結果、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。

いわゆるPRを通じて、メディアに取り上げてもらう場合なども原則として規制対象外と考えられています。

この点、運用基準では、「新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む。)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の 決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはならない。」「ただし、媒体事業者の表示であっても、事業者が表示内容の決定に関与したとされる場合は、事業者の表示となる。この判断の際には、正常な商慣習を超えた取材活動等である実態(対価の多寡に限らず、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体事業者に対して通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)にあるかどうかが考慮要素となる。」とされています。

(3)適切な表示内容

① 事業者の表示を明瞭にする

規制対象となる表示であっても、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっていれば、逆に言えば、第三者の表示であると一般消費者が誤認しない内容になっていれば、許されることになります。

そのため、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示や、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示等を行うことにより、事業者の表示であることを明瞭にする必要があり、事業者の表示であることが全く記載されていない場合は許されません。

また、文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合などの不明瞭な方法でしか記載されていない場合も許されません。

(例)
A社の社長が知り合いの事業者B社に依頼して、商品比較サイトを運営し、その中で「△△(商品ジャンル)で、使い勝手を比較してみた! 1位 A社の商品〇〇 2位 ・・・」というランキングを記載し、そのなかの様々な文章に、紛れ込ませるように「このランキングはPR記事です」という一文を記載し、A社からの依頼で作成したものであるか分かりにくい広告は、不適切な表示になります。

② 規制対象外の類型(事業者の表示が明瞭又は社会通念上明らかな類型)

以下の場合は、一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかであるので、規制対象外とされています。

  放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合。

  事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合。

  新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合。

  商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合。

  事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。

  事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合。

  社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合。

4 ステルスマーケティング規制対応の3ステップ

Step1
事業者自らの表示であるか、第三者の表示であるところ事業者が第三者の表示内容の決定に関与があるか、若しくは、ある程度関係性があるかを確認する。(本項3の2(2))

「ある」場合は規制対象であるので、Step2へ

Step
表示者が事業者ではない場合に、客観的な状況から自主的な意思による表示内容ではなく、事業者から依頼されたこと等が理由となっていないかを確認する(本項3の2(2)但書)。

表示者が事業者である場合、及び、表示者が事業者ではない場合に、客観的な状況から自主的な意思による表示内容ではない場合は、規制対象であるのでStep3へ

Step3
一般消費者にとって事業者の表示であることを明瞭にする(本項3の3(1))。または、規制対象外の類型であるか、確認する(本項3の3(2))。

以上の3ステップで、ステルスマーケティング規制へ対応を進めましょう!

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
森 理俊

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