取締役会の特別利害関係人とは?! 利益相反との関係は?

上場企業の多くは取締役会を設置し、取締役会において会社の重要事項や方針を決定しています。そのため、企業の経営者が取締役会についての会社法上の重要なルールを把握しておかなければ、取締役会の決議が後に無効とされるなどして、会社の運営に重大な支障が生じることにもなりかねません。したがって、IPOを目指す会社においては、取締役会に関する会社法上の重要なルールを適切に把握しておく必要があるといえます。

本記事では、取締役会に関する会社法上の重要なルールのうち、特別利害関係を有する取締役の扱いに焦点を当てて、利益相反取引という具体例を挙げながら解説いたします。

【この記事のポイント】

  • 決議について「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができない(目次1)。
  • 取締役が特別利害関係を有する具体例として、譲渡制限株式の譲渡承認、競業取引・利益相反取引の承認、会社に対する責任の一部免除、監査役設置会社以外の会社における会社・取締役間の訴えの会社代表者の選任等の場合がある(目次2)。
  • 利益相反取引の承認決議において、会社と利害が衝突する取締役は、個人として重大な利害関係を有するため、当該取締役が忠実義務に反し、自らの利益のために会社を犠牲とする議決権行使を行う可能性が否定できないため、そのような取締役は予防的に議決から排除される(目次3)。
  • 特別の利害関係がある取締役は、①決議事項について定足数からも除外され、②出席権・意見陳述権も認められず、③議長を務めることもできない(目次4)。
  • 特別の利害関係がある取締役が決議に参加した場合、当該決議は原則として無効となる(目次5)。

1 特別の利害関係がある取締役の議決からの排除

取締役会決議は、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行われます(会社法第369条第1項。定款で定足数、必要賛成数それぞれを加重することは可能です。)。

しかし、決議について「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができず、その決議事項について、定足数からも除外されます(会社法第369条第2項)。

取締役は会社のために忠実に職務を執行する義務を負っていることから(会社法第355条)、決議の公正を期する必要上、特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないとされているのです。

株主総会における株主の議決権行使と比較すると、株主総会においては、特別利害関係を有する株主の議決権行使は排除されず、同人の議決権行使により著しく不当な決議がなされた場合に総会決議の取消事由となります(会社法第831条第1項第3号)。株主は自らの利益のために議決権を行使することが認められている一方、会社に対する忠実義務を負う取締役については、事前的予防措置として議決権行使が排除されているのです。

2 特別の利害関係がある取締役に該当する場合

取締役会の決議について、個人として重大な利害関係を有する者は「特別の利害関係を有する取締役」に該当します(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁。代表取締役の解任について、当該代表取締役を特別の利害関係がある取締役と認定した事例です。)。

取締役が特別利害関係を有する具体例として、譲渡制限株式の譲渡承認、競業取引・利益相反取引の承認(会社法第365条第1項)、会社に対する責任の一部免除(会社法第426条第1項)、監査役設置会社以外の会社における会社・取締役間の訴えの会社代表者の選任(会社法第364条)等の場合が挙げられます。

一方で、代表取締役の選任議案における代表取締役候補者や、取締役の報酬額の決定(株主総会で報酬の枠が定められ、取締役会に各取締役への具体的付与額の決定が授権されている場合)は、対象となる取締役は、特別利害関係を有しないとされています。

以下では、特別利害関係が認められる典型例として、利益相反取引の承認の場合を具体例として取り上げます。

3 利益相反取引の承認の場合

(1) 利益相反取引とは

①取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(会社法第356条第1項第2号)、又は、②株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときは(同項第3号)、取締役会設置会社においては取締役会の承認(会社法第365条第1項)を受けなければなりません(取締役会非設置会社については株主総会の承認が必要となりますが、本記事では取締役会 であることを前提に解説します。)。
①の場合を直接取引、②の場合を間接取引といい、取締役が会社の犠牲において自己又は第三者の利益を図ることを防止する趣旨でこれらの取引が制限されています。

(2) 直接取引

直接取引について、「自己又は第三者のために」とは、通説によれば、取引の法律上の当事者に当該取締役がなる場合を意味すると解されています。すなわち、取締役自身が当事者として会社の相手方となる場合や、取締役が他の会社などの代理人・代表者として会社と取引をする場合、「自己又は第三者のために」取引をしようとしていると評価されます。

まず、わかりやすい例を挙げると、A社の取締役BがA社からお金を借りる場合、A社の取締役であるBが、A社との間での金銭消費貸借契約の当事者となるため、このような取引は直接取引に該当します。

次に、BがA社及びC社の取締役を兼任しているとします。この場合に、A社とC社が売買契約を締結するに際し、BがC社を代表すると、A社との関係でBは「第三者」であるC社のために取引をすることとなるため、当該取引についてA社の承認が必要となります。他方、BがA社を代表すると、C社との関係でBは「第三者」であるA社のために取引をすることとなるため、この場合はC社の承認が必要となります。しかし、BがA社もC社も代表しないのであれば、A社においてもC社においても承認は不要となります。

(3) 間接取引

間接取引とは、会社が取締役以外の者との間で、会社と取締役の利益が相反する取引をする場合をいいます。
会社法第356条第1項第3号では、「株式会社が取締役の債務を保証する」場合が例示されています。たとえば、A社が自社の取締役BのC社に対する貸金返還債務を保証したとします。このとき、Bが貸金返還債務を履行しなかった場合、A社はC社から保証債務の履行を請求されることになりますが、A社は保証債務を履行した後Bに求償の請求をすることになるため、結果としてA社がBに直接金銭を貸し付けた場合と同様の利害関係に立つと整理することができます。
このように、会社と取締役が直接の契約関係に立たない場合であっても、会社と取締役の利益が相反する取引をする場合には取締役会の承認が必要となるのです。

(4) 利益相反取引における特別の利害関係がある取締役

上記(1)に 記載のとおり、取締役会設置会社においては、利益相反取引を行おうとする取締役は取締役会の承認を受ける必要がありますが、かかる承認についての取締役会決議においては、当該利益相反取引において会社と利害が衝突する取締役は、特別の利害関係がある取締役に該当し、議決に加わることは認められません。

会社と取締役の利益が相反する取引を承認するか否かの決議において、当該取締役が個人として重大な利害関係を有することは明白であり、そのような取締役による決議行使を許せば、忠実義務に反し、自らの利益のために会社を犠牲とする議決権行使を行う可能性が否定できないため、そのような取締役は予防的に議決から排除することとされているのです。

4 特別の利害関係がある取締役の取扱い

(1) 定足数からの排除

上記1に記載のとおり、「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができず、その決議事項について、定足数からも除外されます。

(2) 出席権及び意見陳述権

特別の利害関係がある取締役には、取締役会への出席権及び意見陳述権もなく、退席を要求されればそれに従わなければなりません 。ただし、取締役会において、特別利害関係のある取締役に、説明ないし弁明の機会を与えるためにその出席を許可することは認められています。

(3) 議長権限

多数説は、公正を期する必要性から、特別の利害関係がある取締役は、取締役会の議長を務めることはできないと解しています。

5 特別の利害関係がある取締役が議決に参加した場合の決議の効力

特別の利害関係がある取締役が議決に参加した場合、当該決議は原則として無効となります。

もっとも、判例では、特別の利害関係を有する取締役を除外してもなお議決に必要な多数が存するときは、その効力は否定されないと判断されています(最判昭和54年2月23日民集33巻1号125頁)。ただ、特別の利害関係を有する取締役が議案の審理に加わることにより影響を及ぼす可能性があることから、審理に加わること自体に問題があるとする見解もあり、実務上は、対象となる議案の審理に際しては、特別の利害関係を有する取締役に退席してもらう方法を採るのがよいでしょう。

6 最後に

本記事では、利益相反取引を具体例として、取締役会における特別利害関係を有する取締役の扱いについての会社法の定めについて解説いたしました。

もっとも、実際には、特別利害関係が認められるのかが微妙な事案も多くあります。また、特別利害関係を有する取締役について、議決から排除することは当然として、取締役会で説明を求めるかなど、具体的な取扱いが悩ましいこともあるでしょう。

会社にとって重要な事項を取締役会で決議される場合、少しでも不安があれば、お気軽にご相談ください。

執筆者
シニアアソシエイト/弁護士
宮本 庸弘

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