日本における「会社の目的」と中国における「経営範囲」について
日本の会社法では、会社はその目的を定款に記載し、かつ登記しなければならないと定められています。そして、判例によると、定款所定の目的外の行為は、取引相手方の善意・悪意を問わず無効になると解されています(大判明治36年1月29日民録9輯102頁)。また、定款所定の目的の逸脱は、①取締役等の善管注意義務違反に基づく損害賠償責任事由、②取締役等の行為の差止請求事由、③監査役等の取締役等への報告事由、④役員の解任事由、⑤会社の解散命令事由等として問題となるとされています(江頭憲治郎著「株式会社法(第7版)」(有斐閣)33頁)。
もっとも、最高裁の判例によると、定款に記載された目的自体に含まれない行為であっても目的遂行に必要な行為は目的の範囲に属するものと解すべきであり、その目的遂行に必要かどうかは、問題となっている行為が、会社の定款記載の目的に現実に必要であるかどうかの基準によるべきではなく、定款の記載自体から観察して、客観的に抽象的に必要かどうかという基準に従って決すべきだとされています(昭和27年2月15日最高裁判所民事判例集6巻2号77頁)。このように会社の目的について広く解釈する日本の判例法理では、定款所定の目的の範囲外であると判断されることはほとんどなく、定款所定の目的により会社の権利能力が制限される場面もほぼ皆無といっていいでしょう。
他方で、中国においては、会社の経営活動について、営業許可証に記載された「経営範囲」により厳格な制限がなされており、経営範囲を逸脱した場合は、罰金、営業許可の取り消しなどの処分を科されることになります。ただ、中国においても、経営範囲を逸脱した契約がすべて無効になるわけではない点に注意が必要です。最高人民法院の「中華人民共和国契約法」の適用に関する解釈(一)の第10条では、当事者が経営範囲を超えて契約を締結した場合でも、人民法院はこれによって契約が無効であるとの認定は行わないことを原則としており、例外的に、国家により経営が制限されるもの、経営に特別な許可を受けるべきもの、経営が法律や行政法規で禁止されているものについては、経営範囲を逸脱した契約は無効となるとされています。このように、経営範囲を逸脱した契約が無効となるリスクがある以上は、契約の相手方が中国企業の場合には、当該取引が相手方の経営範囲内のものであるか否かを確認した方が無難であるといえます。
文責:弁護士河野雄介