中国最高人民法院判決の紹介(商標登録権者による権利行使が権利濫用とされたケース)
今回は、中国の裁判所で、商標登録権者による権利行使が権利濫用とされたケースを紹介します。
事案の概要は、次のようなものです。日本の某衣料品メーカーの中国現地法人Yは、よく知られているブランドを用い、中国国内で衣料品の販売をしていました。しかしながら、当該ブランドで用いられているロゴは、中国国内のX社によって、すでに商標登録されていました。
そこで、Yは、Xによる商標登録が無効であると主張して、審判手続を申し立て、その後、紆余曲折を経て(詳細な経緯については割愛します。)、最終審である最高人民法院の判断を仰ぐことになりました。
前提として、上記のケースでは、X社は、膨大な数の商標権を登録しており、その大多数を、自らのビジネスで利用しておらず、登録された商標を利用している企業に対し、交渉や訴訟等を通じて、その買取り等を要求していたことがありました。
最高人民法院は、2018年9月、この点に着目して、Y社がいわゆる商標トロール的な活動をしていたと認定し、その行動が信義誠実の原則に違反するものであって、法的保護の対象とされない旨の判断をしました(最高人民法院(2018)最高法民再396号民事判決)。
中国法務を扱う弁護士であれば、「中国での訴訟をしても、日本企業は不利なんですよね?」といったご質問を受けることが、多くあります。
たしかに、いくつかの条件を満たすケースでは、そのような傾向を否定できない場合もありますが、現在の中国の裁判所では、かなり、公平な審理が期待できるようになってきていると感じています。上記のケースも、関連法令を形式的に適用すれば、日系企業が敗訴してもおかしくないケースであったと思いますが、「信義誠実の原則」に言及して、日系企業の勝訴を導いています。
現に、商標法をはじめ、多くの知的財産関連法令が改正され、政府による知的財産保護に対する取り組みが国際的に(特にアメリカ向けでしょうか)アピールされていることからも、中国においても、国家として、(外国企業も含む)知的財産の保護が重視する傾向であることは間違いないでしょう。
また、上記のケースからは、パテントトロール、商標トロールの存在と活動ぶりが明らかにされていますので、ビジネスの展開に応じ、事前の予防策が重要であることも再認識させられるものです。
(文責:藤井宣行)