国際法務の部屋

PCT国際出願数の割合にみる深圳における先端技術の発展

2019.09.10

少し古い記事になりますが、2019年4月1日付の日本経済新聞の記事で、「世界知的所有権機関(WIPO)が3月にまとめた2018年の特許の国際出願件数をもとに日本経済新聞が集計したところ、中国の出願件数の半数以上の52%を深圳市が占めていたことが分かった。2位の北京市(13%)を大幅に上回った。深圳は国策により次世代高速通信「5G」や新素材など先端技術の開発の後押しを受けており、それを裏付ける調査結果となった。」との報道がなされました。

この記事でいう、「特許の国際出願」とは、いわゆるPCT(Patent Cooperation Treaty、特許協力条約)に基づく出願のことを指しています。

PCT国際出願とは、出願願書を条約に従って一つの国で提出することによって、PCT加盟国である他のすべての国にも同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度を利用した出願のことです。

PCT国際出願では、国際的に統一された出願願書を自国(PCT加盟国である必要があります)の特許庁に対して特許庁が定めた言語(日本の特許庁の場合は日本語もしくは英語)で作成し、1通だけ提出すれば、その時点で有効なすべてのPCT加盟国に対して「国内出願」を出願することと同じ扱いを得ることができます。

つまり、日本でPCT出願をする場合は、日本の特許庁に対して日本語もしくは英語で作成した国際出願願書を1通だけ提出すれば、当該出願願書に記載した出願日がPCT加盟国においての「国内出願」の出願日となります。

もっとも、PCT国際出願は、あくまで国際的な「出願」手続にすぎず、国際出願の発明が、特許を取得したいPCT加盟国のそれぞれで特許として認められるかどうかは、最終的には各国特許庁の実体的な審査に委ねられています。

そこで、PCT国際出願を行った後、権利を取りたいPCT加盟国において、いわゆる国内移行手続を採る必要があります。

国内移行手続きを行うにあたり、優先日から30ヶ月の期限が満了する前に、権利を取りたいPCT加盟国が認める言語に翻訳した翻訳文をその国の特許庁に提出し、その国が求める場合には手数料を支払う必要があります。

WIPOがまとめた、Patent Cooperation Treaty Yearly Review 2019によると、2018年のPCT国際出願の国別ランキングについては、首位は米国の5万6142件、2位が中国で5万3345件、3位は日本で4万9702件となっています。

ちなみに、2003年から2016年までは日本がPCT国際出願件数で第2位の座を保持してきましたが、2017年に中国が日本を抜いて第2位に躍り出て(2017年の中国と日本の出願件数の差はわずか674件)、2018年にはさらに日本との出願件数に差をつけて第2位の座を保持しています(2018年の中国と日本の出願件数の差は3643件に拡大)。

中国のPCT国際出願数が首位の米国に僅差で迫っている中で、中国国内における出願数で深圳市が占める割合がその半数以上の52%ということは、世界の都市の中でも、深圳市(在住の企業又は個人)が群を抜いてPCT国際出願を行っていることを意味しています。

上記の日経新聞の記事でも分析されているところですが、深圳市には、通信機器の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)のほか、ネットサービスの騰訊控股(テンセント)、ドローン(小型無人機)世界最大手のDJIが本社を置いており、これらの深圳在住企業が国策により次世代高速通信「5G」や新素材など先端技術の開発の後押しを受けていることが、上記のようなPCT国際出願数に反映されているものと考えられます。

このような深圳における先端技術の急速な成長に伴い、深圳を中心とする地域へ進出する日本企業や、日本を投資対象とする深圳在住の投資家等、日本と深圳の間の様々なビジネス上の連携が増えるものと思われます。

当事務所としても、よりサポート体制を充実させ、深圳での情報をいち早くお届けできる体制を構築すべく、海外拠点としてアクシスコンサルティング深圳(亚科喜咨询(深圳)有限公司)を2018年に設立しておりますので、深圳関連のご相談につきましてもお気兼ねなくご相談いただけますと幸いです。

参考サイト

PCT国際出願制度の概要(特許庁)

WIPO PCT年次報告 

執筆者
河野 雄介
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士

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