海外贈賄防止デュー・ディリジェンスについて
2018.11.12
1 はじめに
日本企業がM&Aにより海外企業を買収するケースが増えています。その際、当該買収対象会社が贈賄を行っていないかの確認は重要です。なぜなら、M&Aにより買収した海外子会社であったとしても、日本企業が海外事業において贈賄に関与したとなれば、日本の刑事罰(不正競争防止法違反)はもとより、米国の連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)等の違反として罰金等の対象となったり、社会的信用の失墜、取引先からの取引停止処分を受けたりなど企業価値の毀損に直結する重大なリスクにつながるからです。
そこで、本稿では、日本弁護士連合会が作成した海外贈賄防止ガイダンスの手引の記載を参考に、海外企業を買収する際の、海外贈賄防止デュー・ディリジェンス(以下、「海外贈賄防止DD」といいます)の手順をご紹介します。
2 買収契約締結前に実施する海外贈賄防止DDについて
買収契約締結前においては以下の事項に留意して海外贈賄防止DDを実施する必要があります。
- 買収計画段階において、対象事業の活動国、業界、事業形態に応じた贈賄リスクの評価を実施する。
- 海外贈賄防止DDを、買収のための法務監査及び財務監査と並行して早期に計画し、リスクの程度に応じた人的・物的資源の配分を行う。
- 海外贈賄防止DDにおける確認内容としては、(i)買収対象企業において海外贈賄防止体制が構築されているか、(ii)経営トップ、主要役職員のコンプライアンス意識の高さ、(iii)事業活動のエージェント等の第三者への依存度、(iv)第三者の活動国以外の国に存在する銀行口座への支払の有無、(v)接待・贈答・招聘・寄付等に関する費用支出、頻度、態様、(vi)現金口座の管理状況及びファシリテーション・ペイメントの支払の有無、(vii)許認可の取得、通関に関する費用の支出状況、(viii)政府関係者の親族の雇用の有無、(ix)内部通報体制の構築状況、(x)買収先企業又は経営陣の前科・前歴・行政処分歴、(xi)贈賄を防止するのに十分な会計制度の存在等が考えられます。
- 海外贈賄防止DDの手段としては、提供された資料の精査、ヒアリング、贈賄を防止するのに十分な内部統制が存在するかの実地調査を必要に応じて、法律事務所、会計事務所、調査会社等を起用して実施します。
3 海外贈賄防止DD実施後の対応について
海外贈賄防止DDを実施した後、買収契約を締結するにおいて以下の事項に留意する必要があります。
- 海外贈賄防止DDの結果、贈賄問題を発見した場合においてその問題が買収の目的を達成できる程度である場合は、買収契約の誓約条項において、必要に応じて、買収対象企業をして、関与役職員の処分、発見事項に関連した追加調査及び報告、経営トップの贈賄防止への強い姿勢を示す誓約書の提出、又は実行可能な再発防止策の検討と導入などを実施させる内容の売主の誓約条項を合意する。また、リスクや処理費用を考慮した買収金額の調整を行う。
- 海外贈賄防止DDの結果、買収の目的を達成できない程度に贈賄リスクが高い問題を発見した場合には、買収の取りやめ又は贈賄リスクが高い部分の事業を含まない買収への計画変更を行う。
- 買収契約において、当該買収対象事業につき贈賄問題が存在しないことを内容とする売主の表明保証条項を合意する。支払いを
4 買収完了後の対応について
買収完了後には、以下の事項に留意します。
- 買収完了前の海外贈賄防止DDにおいてインサイダー規制又は売主の非協力により十分な情報を入手できない場合には、買収完了後直ちに一定の期間を設けて贈賄リスクが高い分野を中心に十分な海外贈賄防止DDを実施する。
- 買収完了後に発見した贈賄問題については、当局への通報の検討、関与役職員の処分、又は再発防止策の導入のほか、買収契約における表明保証条項を行使するなどして買収に関連する贈賄リスクを最小限にするように努める。
- 買収完了後、自社の基本方針及び社内規程を含む海外贈賄防止の内部統制を買収対象事業に対して速やかに適用し、買収対象事業のモニタリングを実施する。
- 買収対価の支払いを二段階としておき、買収後、一定期間調査を行った後に残代金を支払うような契約としておく。