国際法務の部屋

中国における特許、商標侵害訴訟におけるライセンシーの原告適格について

2018.10.10

本稿では、中国企業に特許の実施または商標の使用を許諾する場合、第三者が特許権または商標権を侵害する行為が発生した際、ライセンシーである中国企業は、原告として第三者を相手に民事訴訟を提起することができるか否かを検討します。

 

一 ライセンスの類型

1 特許ライセンス

最高人民法院が公布した「技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」 25 条によれば、中国における特許ライセンスの種類は、以下の三つあります。

(1)独占的実施許諾

独占的実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた実施許諾範囲内において、一つのライセンシーのみに実施権を許諾し、ライセンサー自身も当該特許を実施できないライセンスです。

(2)排他的実施許諾

排他的実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた特許実施許諾範囲内において、単独のライセンシーのみに実施権を許諾するが、そのライセンシー以外にライセンサー自身も当該特許を実施することができるライセンスです。

(3)通常実施許諾

通常実施許諾は、ライセンサーが、契約に定めた特許実施許諾範囲内において、ライセンシーに実施権を許諾するが、更に他の者に実施権を許諾することもでき、自ら特許を実施することもできるライセンスです。

 

2 商標ライセンス

上述した特許ライセンスの類型は、商標ライセンスにおいても、ほぼ同様な類型が規定されています。最高人民法院が公布した「商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」3条によれば、中国における商標ライセンスの種類は、以下の三つあります。

(1)独占的使用許諾

独占的使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーにのみ登録商標の使用を許諾し、商標登録者は当該登録商標を使用することができないライセンスです。

(2)排他的使用許諾

排他的使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーにのみ登録商標の使用を許諾し、商標登録者自身が当該登録商標を使用することができるが、別途、他の者に当該登録商標の使用を許諾することはできないライセンスです。

(3)通常使用許諾

通常使用許諾は、商標登録者が約定した期間・地域・方法で、ライセンシーに登録商標の使用を許諾し、自分自身も使用することができ、また他の者に使用を許諾することもできるライセンスです。

 

二 原告適格について

第三者による侵害行為が発生した場合、ライセンスの類型により、ライセンシーが第三者を相手に民事訴訟を提起することができるか否か、いわゆる原告の適格に関して、特許と商標の状況は異なります。

商標の場合、「商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」4条によれば、

  • 独占的使用許諾契約の場合、ライセンシーは自ら訴訟を提起することができる。
  • 排他的使用許諾契約の場合、ライセンシーと商標登録者と共同して訴訟を提起することができ、また商標登録者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。
  • 通常使用許諾契約の場合、ライセンシーは商標登録者から明確な授権を得て、訴訟を提起することができる。

このように、それぞれ条件が異なりますが、商標ライセンスの三つ類型において、ライセンシーのいずれも、その原告適格が認められます。

 

上述したように、特許ライセンスの類型は商標ライセンスの類型とほぼ同様であるため、特許ライセンスのライセンシーの原告適格、条件も、商標ライセンスの場合と同様ではないか、と思われがちですが、実際にはそうではありません。

中国現行法上、特許ライセンスのライセンシーが第三者(侵害者)を相手に民事訴訟を提起する資格を直接規定する法的根拠はありません。

といっても、裁判上、特許権侵害案件において、人民法院はライセンシーが原告適格を有するか否かを論じる際、最高人民法院が公布した「訴訟前に特許権侵害行為の停止における法律適用問題に関する若干規定」をよく引用します。同規定1条によれば、

  • 特許権者または利害関係者は、特許権侵害者に侵害行為を停止させる命令を、訴訟前に人民法院に申請することができる。
  • 「利害関係者」には、特許ライセンスのライセンシーが含まれる。
  • 独占的実施許諾契約の場合、ライセンシーが単独で人民法院に停止命令を申請できる。
  • 排他的実施許諾契約の場合、特許権者が停止命令を申請しなければ、ライセンシーが人民法院に申請できる。

同規定12条によれば、人民法院が侵害行為の停止を命じてから15日以内に、特許権者または利害関係者が訴訟を提起しなければ、裁判所は停止命令を解除することとなります。以上の規定から、独占的実施許諾および排他的実施許諾のライセンシーが原告適格を有するという解釈も可能です。また、排他的実施許諾契約の場合、裁判上、ライセンシーと特許権者と共同して訴訟を提起することも認められます。

 

また、特許ライセンスの場合、通常実施権のライセンシーは原告適格を付与されていないことに留意すべきです。この点は商標ライセンスの場合と異なります。商標の通常使用許諾のライセンシーの場合は、商標登録者から明確な授権を得て、訴訟を提起することができるとされています。

 

3 まとめ

特許と商標ライセンスにおいて、それぞれの類型、第三者侵害案件におけるライセンシーの原告適格について、下表に整理しました。

ライセンスの類型ライセンシーの原告適格
特許独占的実施許諾ライセンシーが自ら訴訟を提起できる。
排他的実施許諾ライセンシーと特許権者と共同して訴訟を提起することができる。

特許権者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。

通常実施許諾訴訟提起の資格はない。
商標独占的使用許諾ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる
排他的使用許諾商標登録者と共同して訴訟を提起することができる。

商標登録者が訴訟を提起しない場合、ライセンシーが自ら訴訟を提起することができる。

通常使用許諾商標登録者から明確な授権を得て、ライセンシーが訴訟を提起することができる。

 

(文責:李航 中国弁護士)

執筆者
S&W国際法律事務所

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