情報化社会とともに進む中国の執行に関する最新動向(その二)
中国では、「執行難」を解決するための有効な措置として、大きく分けて二点が挙げられます。一つは、前回述べたように、裁判所と銀行等の金融機構との連動システムによる、被執行人の口座情報、金融資産情報の共有です。もう一つは、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行者への厳しい制裁措置です。
2010年、最高人民法院は、被執行者による高度消費への制限に関する司法解釈を公布し、2015年に同司法解釈をより厳しく改正しました。これによれば、判決に確定された義務を履行しない被執行者による9種類の消費が制限されます。被執行者が法人の場合、その法定代表者、主要責任者等が前述した消費制限を受けることとなります。9種類の消費制限のうち、飛行機や新幹線(中国語:高鉄)のチケットを買えないことや、星付のホテルに泊まることができないことは、業務及び生活に多大な影響を与えるため、被執行者に義務を履行するよう促す効果があります。統計によれば、2018年3月までに、延べ人数で合計10,148,000人が飛行機チケット購入制限を受け、3,912,000人が新幹線チケット購入制限を受けたそうです。
一方、2013年、最高人民法院は、信用喪失被執行者リストの公開に関する司法解釈を公布し、2017年に同司法解釈をより厳しく改正しました。判決により確定された義務を履行しない被執行者が、同司法解釈に定める状況に該当すれば、信用喪失被執行者リストに記載され、最高人民法院の執行情報サイトにおいて公開されることとなります。同司法解釈に定める状況とは、(1)履行能力があるのに、発効した法律文書に確定された義務を履行しないこと、(2)証拠の偽造または暴力、脅迫などで執行を妨害、抵抗すること、(3)虚偽の訴訟、仲裁または財産の隠匿、移転などで執行を忌避すること、(4)財産報告制度に違反すること、(5)消費制限命令に違反すること、(6)正当な理由なく執行に関する和解協議を履行しないことが挙げられます。統計によれば、2018年3月まで、合計9,961,000人が信用喪失被執行者リストに記載されたそうです。
同司法解釈によれば、裁判所は、信用懲戒措置として、信用喪失被執行者の情報を行政機関、与信管理機構、業界協会などに通報します。これにより、政府調達、入札、行政許認可、融資、資質認定などの局面において、同被執行者が不利益を受けることとなります。
さらに、裁判所は、信用喪失被執行者リストを執行情報サイトにおいて公開するとともに、新聞、ラジオ、テレビ、インターネットなどのルートで社会に公開することもできます。実務上、一部の地方では、裁判所がこのような社会公開措置に力を入れ、たとえば、列車駅や高速道路などの公共施設に設置されるスクリーンに信用喪失被執行者リストを流したり、公共バスの側面に信用喪失被執行者の氏名、写真等を載せたり(下記の写真をご参照ください)、信用喪失被執行者へ電話する際、電信会社の設置により、その携帯の着信メロディーに信用喪失被執行者であることを提示したりするなど、様々な社会公開措置が執られます。
このような強力な社会公開措置は、「2、3年をかけて執行難を基本的に解決する」決意が示されており、信用喪失被執行者への督促、懲戒効果があります。しかし、被執行者を集中して制裁するためのキャンペーンのようにも感じられ、間接強制措置が濫用され、被執行者の正当な権利を過度に侵害する傾向もあるのではないかと、懸念する声もあります。
このように、情報化社会の進行を背景として、中国の裁判所は、情報の共有、連動措置を最大限に利用し、そのうえ、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行者を厳しく制裁し、これらを通じて「執行難」の解決に努めています。執行申請者の立場からは、これは望ましい動向ですので、今後、日系企業が執行申請者になる場合、積極的に強制執行措置を申請するようお薦めします。一方、被執行者にされるリスクがある場合は、間接強制措置の法的効果、その解消方法などについて、早めに弁護士に相談したほうが良いでしょう。
文責:李航(中国弁護士)