中国における立退き
中国で、民間企業の工場や、個人の住居等が、地元政府から立退きを要求され、「無理矢理に」立ち退かされたといったニュース等を目にされたことがあるかもしれません。
こういったニュースを目にすると、「だから中国でのビジネスは怖い(危ない)」といった感想を持ってしまうかもしれませんね。
たしかに、以前は、強引な立退きがされたこともあり、中国でも社会問題化したことがあるのは事実です。
現在は、立退きに関しては、「国有土地上家屋収用及び補償条例」という法律があり、そこでは、土地収用に関する補償の方針について公布し、公衆の意見を募集し、かつ、意見募集情況及び公衆の意見に基づき修正した情況を速やかに公表することを政府等に義務付けています(同条例10条、11条)。
同条例27条では、「いかなる法人及び個人も暴力、威嚇を実施する又は規定に違反して給水、熱供給、ガス供給、電力供給及び道路通行を中断する等の不法方式により収用対象者の立退きを強制してはならない。建設業者が立退き活動に関与することを禁止する。」と規定しており、手続的な適正さについても、一定程度、法令上担保されています。
また、立退きを受ける場合には、収用対象家屋の価値(家屋収用決定の公告日の収用対象家屋に類似する不動産の市場価格を下回ってはならない)、家屋収用により発生した生産、営業停止に伴なう損害に対する補償を受けることができるとも規定されています(同条例27条)。
実際に、私が関係した案件でも、立退交渉に際し、弁護士が介入して政府と交渉することにより、適正な補償を得ることができたケースもあります。
他方で、中国法上、不動産権利所属登記を行っておらず、かつ不動産権利証書を取得していなければ、当該不動産に関する法律上の保護を受けることができませんので、上記の法令を根拠とした交渉を進めることは困難になります。
これも私が関係した案件で、20年以上前に、工場や社員寮等を建設し、登記手続等は行っていなかったものの、政府等から問題にされたことはなかったという事例です。当事者の意思としては、「政府が黙認していたではないか」という心情がありましたが、上記のとおり法律上の保護を受けれずに満足な補償を得られなかったケースがあります(日系企業においても、中国の会社が設立した会社を買収した場合や、中国側との合弁契約で、現地に関するコントロールをすべて中国方に任せていた場合等に、このようなケースが生じやすいように思います。)。
このように、中国では、近年、急速に法治の面も進歩しており、冒頭に記載したような抽象的な印象論ではなく、緻密に現在の法令の調査、及び、自社の法令適合性等を分析・検討したうえで、経営判断をすることが重要です。
(文責:藤井宣行)
以上