海外M&Aにおいて法務担当役員に期待される役割 ~「9つの行動」別冊編のご紹介
以前執筆したブログ「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について(その1)」で、経済産業省が、平成30年3月に発表した「我が国企業による海外M&A研究会報告書」について取り上げたことがありました。
日本企業がグローバル規模で成長を実現していく上で、海外M&Aが重要かつ有効なツールとして認識され、日本企業による海外M&Aは増加傾向にある一方で、海外M&Aの難易度の高さから、期待されていた成果を十分あげられないケースも少なくないという背景から、平成29年度に経済産業省は、「我が国企業による海外M&A 研究会」を開催し、日本企業が抱えるM&A に関する課題を有識者とともに検討し、海外M&A を有効に活用していく上での留意点や事例を、この報告書と「海外 M&A を経営に活用する9つの行動」としてとりまとめていました。
ちなみに、9つの行動は、下記のとおりです。
- 目指すべき姿」と実現ストーリーの明確化
- 「成長戦略・ストーリー」の共有・浸透
- 入念な準備に「時間をかける」
- 買収ありきでない成長のための判断軸
- 統合に向け買収成立から直ちに行動に着手
- 買収先の「見える化」の徹底(「任せて任さず」)
- 自社の強み・哲学を伝える努力
- 海外M&A による自己変革とグローバル経営力
- 過去の経験の蓄積により「海外 M&A 巧者」へ
その後、経済産業省は、令和元年6月に、上記の「9つの行動」の内容を踏まえ、各企業が海外M&Aに取り組んでいく上でより具体的・実践的に役立て、海外M&Aを活用し企業の成長につなげていくためにCEOと共に重要な鍵を握るCFO、法務担当役員及び社外取締役という3つのポジションに焦点を当て、これらのポジションの職責や専門性に応じて期待される役割やアクションについて、より具体化・明確化した「9つの行動」別冊編をとりまとめました。
法務的な観点から興味深いのは、法務担当役員に期待される役割として挙げられている下記の点です。
(ア) 経営チームの一員として戦略策定等に関与しているか
(イ) 必要なリスクを取るための検討ができているか
(ウ) 事業サイドからいつでも頼りにされる信頼関係があるか
(エ) 法務部門の経験・ノウハウを活かしているか
(オ) 外部アドバイザーの主体的な活用を意識しているか
(カ) 戦略や買収目的との整合性についての調査は十分か
(キ) 成長のための明確な判断軸をもった検討を行っているか
(ク) グローバル規模でのリスクマネジメント体制が整備できているか
(ケ) 買収後の状況を定期的にモニタリングできているか
この中でも、M&Aに外部アドバイザーとして携わってきた立場から興味深かったのは、上記の(オ)に関して、現場の声として記載されている、「日頃から弁護士事務所等と信頼関係を構築し、自社の社風や戦略への理解を得ておくことも重要。これにより実際のディールの際にも自社の事情とミスマッチなく依頼することが可能に。」という部分と、上記の(キ)に関して現場の声として記載されている、「外部の弁護士は事業の内容を必ずしも熟知していないことから、『可能性』での議論、すなわち(軽重問わず)あらゆるリスクを列挙する方に傾く場合がある。
したがって、社内の法務が『蓋然性』の視点から(それがどのようなビジネス上のインパクトを有するのかも含めた)議論を行い、会社として取っていいリスクか否かについて精査・検討する必要。」という部分です。
この他にも、示唆に富んだ記載が多数ありますので、海外M&Aに関与される方はぜひ「9つの行動」別冊編をご一読されることをお勧めいたします。