中国における民事訴訟と出国制限リスクについて
第1 はじめに
今回は、設例をもとに、中国において民事訴訟を提起された場合の出国制限リスクについて検討したいと思います。
第2 設例
日本企業A社が、中国に100%出資子会社として、現地法人B社を持っており、A社の代表取締役CがB社の法定代表者を兼務しているとします。この中国現地法人B社を被告として、中国の人民法院に民事訴訟が提起された後に、Cが中国に入国した場合、Cの出国が制限されるリスクはあるのでしょうか。
第3 回答
出国制限については、中国民事訴訟法255条で、「被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合には、人民法院は、当該被執行人に対し、出国制限並びに信用情報システム記録及びメディアを通じた義務不履行情報の公表並びに法律に定めるその他の措置を自ら行い、又は関係単位に協力を求めてこれらの措置を行うことができる。」と規定されています。
そして、中国の最高人民法院が制定した、「『民事訴訟』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」において、①被執行人が単位(法人を含む)である場合は、その法定代表者に対して出国制限を行うことができる(同解釈37条)、②被執行人に対して出国制限を行う場合は、執行申立人が執行人民法院に書面の申し立てを提出しなければならず、必要がある場合は、執行人民法院が職権により決定することができる(同解釈36条)と規定されています。
そうすると、B社の敗訴判決が確定したにもかかわらず、判決で認められた義務を履行しない場合には、B社の法定代表者であるCは相手方当事者から出国制限措置の申し立てまたは人民法院による職権判断により出国制限の決定をされてしまうリスクがあります。とくに、勝訴判決が確定した相手方当事者は、当該確定判決に基づいてB社による任意の履行を得るための戦略として、Cの出国制限の申し立てをしてくる可能性がありますので、Cとしては敗訴判決が確定し、当該判決に基づいた履行を行っていない場合の中国への入国は避けた方がよいでしょう。
他方で、判決が確定していない段階であれば、上記の中国民事訴訟法255条に基づいた出国制限措置がとられることはありません。
もっとも、上記の民事訴訟法の規定とは別に、中国の出入国管理法の第28条では、「外国人が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、出国を許可しない」と規定されているところ、同条2号において「未決の民事事件があり、人民法院が出国不許可の決定をした場合」が挙げられています。
このように、中国において民事訴訟が提起され、敗訴判決が確定していない段階であったとしても、人民法院によりCに対して出国不許可の決定がなされるリスクは残っています。したがって、中国において民事訴訟を提起された企業の法定代表者は、たとえ判決確定前であっても、不要不急の中国への入国は差し控えた方が無難といえます。
文責 河野雄介