税制適格ストックオプションの要件(令和5年度改正)

令和5年4月1日、租税特別措置法の改正法が施行されました。これは、ストックオプション税制を拡充するもので、ベンチャー企業のファイナンスの実務に大きな影響を与えることになりますので、本記事で解説します。

1 税制適格ストックオプションとは

ベンチャー企業では、事業と会社を成長させるため、優秀な人材を必要とします。しかしながら、優秀な人材を雇い入れるためには相応の対価が必要となるにもかかわらず、ベンチャー企業においては、潤沢なキャッシュが手元にないという場合も少なくありません。

そのような場面では、会社から取締役や従業員に対し、報酬や賃金の不足を補い、モチベーションを高めてもらうために、ストックオプションを発行するという手段をとることがあります。

ストックオプションがこのような文脈で発行されるものである以上、ストックオプションの発行により、取締役や従業員が税務上不利益を受けることがあってはなりません。そこで、ストックオプションは、税金面で優遇される税制適格ストックオプションとして設計されることが一般的です。

2 税制適格ストックオプションの要件

税制適格ストックオプションの要件は、租税特別措置法第29条の2第1項等に規定されています。
その概要は、以下のとおりです。

①付与の対象 ※1(a) 会社又はその子会社の取締役、執行役、又は使用人(大口株主 ※2 等を除く)
(b) (a)の相続人

(租税特別措置法第29条の2第1項柱書)
②発行価格無償
(租税特別措置法施行令第19条の3第1項)
③権利行使期間ストックオプション付与決議から2年~10年
(租税特別措置法第29条の2第1項第1号)

→今回の改正により、設立5年未満の非上場会社については、権利行使期間が【ストックオプション付与決議から2年~15年】に伸長されました。後記3で詳述します。
④権利行使価額ストックオプションにかかる契約締結時における株価以上の金額
(租税特別措置法第29条の2第1項第3号)
⑤権利行使限度額年間の権利行使価額の合計額が1200万円未満
(租税特別措置法第29条の2第1項第2号)
⑥譲渡制限第三者への譲渡は禁止
(租税特別措置法第29条の2第1項第4号)
⑦保管委託ストックオプションを行使して得た株式について、証券会社又は金融機関等による保管・管理等信託が必要
(租税特別措置法第29条の2第1項第6号)

※1 社外高度人材活用新事業分野開拓に従事する社外高度人材に対しても発行することが可能だが、その場合には税制優遇を受けるための要件が加重される。

※2 非上場会社においては、発行済株式総数の3分の1を超える数の株式を保有する株主をいう(租税特別措置法施行令第19条の3第3項)。

なお、上記のうち③から⑦は、ストックオプションにかかる契約に定める必要がありますので、この点に留意が必要です。

上記⑥の譲渡制限を例にとると、ストックオプションにかかる契約において、ストックオプションを譲渡してはならない旨を定めておく必要があります。契約書上に譲渡禁止が定められていなければ、仮にその後一切譲渡することがなかったとしても、上記⑥の要件を満たさないことになります。

3 権利行使期間の伸長

前記2に記載するとおり、今回の租税特別措置法の改正により、税制適格ストックオプションの権利行使期間が、以下のとおり一部伸長されました(租税特別措置法第29条の2第1項)。

【従来の制度】
ストックオプションの行使は、付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならない。
【法改正後の制度】
ストックオプションの行使は、付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならない。但し、ストックオプションを発行する会社が設立5年未満の非上場会社である場合は、付与決議の日後2年を経過した日から15年を経過する日までの間に行わなければならない。

ストックオプションは、会社がエグジット(IPO又はM&A)するまで行使できない形で設計されることが一般的です。

そのため、従来の法制下では、ストックオプションを発行してから10年以内に会社がエグジットしなければ、ストックオプションを行使することができませんでした。しかし、上記の法改正により、設立5年未満の非上場会社については、ストックオプションの発行から15年以内のエグジットを目指して、長期的な成長を計画することが可能になったといえます。

4 まとめ

租税特別措置法の令和5年改正により、設立5年以内のベンチャー企業にとっては、従前よりも柔軟なストックオプションの設計が可能になりました。

当事務所では、ストックオプションの発行について、豊富な知見を有しています。
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執筆者
カウンセル/弁護士
和田 眞悠子

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