ベンチャー法務の部屋

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2

2020.04.06

前回、「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」と題するブログ(前回ブログ)をアップしました。

今回は、その続報を踏まえた対応です。前回から少し状況が変化していますので、ご注意ください。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省)の内容

経済産業省と法務省は、2020年4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を発表しました。

概要は、以下のとおりです。

  1. 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能である。その際には、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。
  2. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能である。現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えられる。
  3. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能である。事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えられる。
  4. 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能である。
  5. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能である。

この内容は、裁判所の判断を拘束するものではありませんが、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。

多少私見を含めて、述べるとすれば、ポイントとしては、以下のとおりです。

  • 現在の状況(2020年4月2日現在)であれば、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はないと考えられる。
  • オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。ベンチャー企業の場合は、後述のとおり、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法が、大変な場合もある。この場合、委任状による議決権の代理行使を強く推薦する方法もある程度、認められるだろう。
  • 株主総会への出席について事前登録制も採用可能であるが、人数制限を課す場合は、株主平等原則に十分配慮する必要がある。
  • 発熱や咳などの症状を有する株主の入場拒否や強制退場、総会の時間短縮など、感染拡大防止や安全配慮のための具体的な危険回避の措置は、問題がない。

なお、「 オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はない 」という場合でも、 株主総会自体は、リアルの場所で開催されたものとし、具体的には、議長のいる場所を、総会の開催場所とする等の前提は必要と思われます。オンライン上の仮想空間やURLを会場を開催場所とすることは、許されないという点は、変わっていません。

ところで、書面による議決権行使(書面投票制度)は、招集通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類及び議決権行使書面を交付しなければなりません。小規模なベンチャー企業では、株主総会招集通知とは別に、株主総会参考書類を適法に作成するための人的時間的リソースがないことも少なくありません。 そこで、ベンチャー企業の株主総会を、どのようにするか、ということが問題になります。

なお、議決権を有する株主の数が1000人以上の会社においては、書面による議決権行使を株主に認めるべきことが法律上強制されていますが、ベンチャー企業では、通常、そのようなことがありませんので、書面による議決権行使を採用する必要はありません。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省) を踏まえたベンチャー企業の株主総会対応

オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいとされています。しかし、ベンチャー企業は、上述のとおり、一般的には、事前の議決権行使の方法を採用しないことが多いと思います。 事前の議決権行使の方法を採用しない 場合は、やはりオンラインのみではなく、建付けとしては、オンライン+リアル総会としつつ、かなり強く、委任状による議決権の代理行使と、オンラインによる出席を、強く推薦するという方法が現実的であろうと思われます。全株主同意を前提とする書面株主総会による方法(前回ブログの2(1))が採用可能である点は、変わりません。

前回ブログでは、「仮にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施したとしても、具体的に既に感染している株主であること等の具体的な感染リスクが懸念される等の例外事由がない限り、実際の来場を拒むことは、基本的にできないと考えられます。」と記載しました。
この点は、少し変更になります。すなわち、いわゆる「三密」ではない空間を用意することが難しいこと、外出自粛要請や10 名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けることが要請されていること、新型コロナウイルス感染防止拡大、緊急事態宣言が発令されていること等を理由として、オンライン出席や委任状提出を強く促しつつ、株主の入場を数名程度に制限することと通知して、実際に総会会場にリアルに出席を希望する株主には、一定の期日までに連絡してもらい、制限員数を超える場合は抽選にすることとし、招集通知等で、その旨を記載する方法などが考えられます。そのため、招集通知の記載方法次第では、ほぼ事実上、オンラインをメインとした株主総会を開催することはできると考えます。

【招集通知の文言の例】

さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症拡大の状況並びに政府、地方自治体等からの外出自粛等の要請を踏まえ、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しております。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染防止及び感染拡大防止の観点から、株主総会の会場に実際にお越しになる代わりにオンラインを通じた出席を強くお願い申し上げます。当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。上記制限人数を超過する場合は、抽選などの方法で、来場者を限定させていただく場合がありますので、予めご了承ください。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

なお、オンラインでの出席を認める場合には、株主総会に、出席の方法として、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要であるとする点は、前回ブログから変更はありません。

2020年5月29日 アップデート情報があります。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3」をご確認ください。

(文責:森 理俊)

執筆者
S&W国際法律事務所

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