ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について
1 はじめに
COVID-19(新型コロナウイルス)への対応について、現時点で、政府・厚生労働省は、下記の要請等があります。
令和2年2月20日(抜粋)
イベント等の主催者においては、感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。なお、イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません。
また、開催にあたっては、感染機会を減らすための工夫を講じていただくようお願いいたします。例えば、参加者への手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置、風邪のような症状のある方には参加をしないよう依頼をすることなど、感染拡大の防止に向けた対策の準備をしていただくようお願いいたします。
令和2年2月26日(安倍総理)
政府といたしましては、この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。
「新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために」(令和2年3月1日版)(抜粋)
イベントを開催する方々は、風通しの悪い空間や、人が至近距離で会話する環境は、感染リスクが高いことから、その規模の大小にかかわらず、その開催の必要性について検討するとともに、開催する場合には、風通しの悪い空間をなるべく作らないなど、イベントの実施方法を工夫してください。
令和2年3月10日(安倍総理)
政府としては、先般決定された基本方針において、イベントの開催の必要性について主催者等に検討をお願いし、またそれを踏まえて、全国規模のイベントについては中止、延期、規模縮小等の対応を要請したところですが、専門家会議の判断が示されるまでの間、今後概ね10日間程度はこれまでの取組を継続いただくよう御協力をお願い申し上げます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html#26
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601720.pdf
この状況を踏まえて、ベンチャー企業(非上場企業)における株主総会の開催方法について検討します。
2 株主総会の実際の開催方法について
(1) 実際の開催を中止して、書面株主総会による方法
株主総会は、決議事項について議案に対する賛否を書面等で問い、総株主の賛成が得られれば、決議が成立したものとみなすことができます(いわゆる書面株主総会。会社法第319条第1項)。株主への報告の通知も、総株主が同意すれば通知で足ります(同法第320条)。したがって、非上場企業で、株主が少ない場合は、この書面株主総会を利用することができます。
これは、決議を行う方法として書面などによる決議方法によることについて総株主の同意を得ることを要求している物ではなく、議案そのものへの同意が必要で、且つ、それで十分です。要するに、会議体としての株主総会を開かないでよいことになります。
【参考条文】
(株主総会の決議の省略)
第319条
第1項 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
(省略)
第5項 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。
(株主総会への報告の省略)
第320条 取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。
(2) 株主総会の延期による方法
法務省は、令和2年2月28日付けで「定時株主総会の開催について」(本稿作成時点では、最新は令和2年3月13日更新版)を公表し、概要として、以下のように述べています。
(i) 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお、会社法は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
(ii) 定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
(iii) 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。なお、このように、剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には(ii)の場合と同様に、当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
ただ、「定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況」というのは、判断が難しいのが実際であろうと思われます。
特に、書面株主総会や、後述するオンライン参加での株主総会等も考えられますし、延期したとしても、いつ、現在のような状況が終息するか、まだわかりません。そのため、ベンチャー企業では、株主総会の延期は、現実的な選択にはならないのではないでしょうか。
(3) いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会
経済産業省は、2020年2月26日付けで「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました」を公表しています。
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう、とのことです。
株主のバーチャル参加を認めるにあたっては、zoomやgoogle hangout meets 等の動画配信を行う web サイト等にアクセスするためのURL(ID、PW) を招集通知等と同時に通知する方法や、既存の株主専用サイト等を活用する方法などが考えられます。
参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、会社法上、株主総会において株主に認められている質問(法 314 条)や動議(法 304 条等)を行うことはできないと考えられます。しかし、株主総会の会議中にインターネット等の手段による参加株主からコメント等を受け付けたり、回答したりすることは、否定されていないと考えられます。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html
なお、仮にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施したとしても、具体的に既に感染している株主であること等の具体的な感染リスクが懸念される等の例外事由がない限り、実際の来場を拒むことは、基本的にできないと考えられます。(2020年4月6日追記:この点を変更し、「オンライン出席や委任状提出を強く促しつつ、株主の入場を数名程度に制限することと通知して、実際に総会会場にリアルに出席を希望する株主には、一定の期日までに連絡してもらい、制限員数を超える場合は抽選にする」方法は、可能と考えます。詳細は、ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2をご覧ください。)
また、会社法上、株主総会の招集に際して株主総会の場所を定めなければならないとされている(会社法第298条第1項第1号)ことなどに照らすと、物理的な会場を明確にしないで株主総会の開催すること、すなわち、オンライン上の仮想空間やURLを会場を開催場所とすることは、許されないと考えらえます。
3 議決権の行使
ベンチャー企業(非上場企業)の多くでは、議決権行使は、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使をする方法が用いられています。
ほかに、書面投票制度(会社法第311条)や、電子投票制度(会社法第312条)も考えられますが、ベンチャー企業(非上場企業)は、株主数が比較的少なく、委任状で賛否を確認することが可能ですので、委任状よりもコストがかかりうる、これらの制度が用いられることは、それほど多くないと思われます。
なお、上記のハイブリッド型バーチャル株主総会でも、その置かれている状況により、インターネット等の手段を用いて審議を傍聴した株主が傍聴後に議決権を行使することを可能にするような選択肢を検討することも考えられます。この点、会社法第298条第1項第4号、同法施行規則第63条3号は、同法施行規則第70条が、「出席しない株主」のための電磁的方法による議決権行使の期限を株主総会の日時以前の時と定めているのは議決権行使結果の集計に係る会社の便宜のためであり、会社の判断で採決に入る時まで事前の議決権行使を受け付けることを会社法が許容していないとは考えにくいとして、同施行規則 63 条 3 号ハにいう「株主総会の日時以前の時」とは株主総会における採決時以前の時と解すこととなり、取締役が事前に電磁的方法による議決権行使の期限を株主総会における採決時と定めた場合には、中継動画等を傍聴した株主が、その様子を確認した上で議決権行使を行うことも可能とする考えは、ありうるものといえます(「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」9頁参照)。ただ、この考え方は、確定した判例や裁判例によるものではない点にご留意ください。
仮に、株主や取締役がオンラインで出席した場合の議決権行使、議事録については、以下のように考えられます(相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔編著「新・会社法 千問の道標」(商事法務)472頁)。
(i) 株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあるのであれば、個々の株主が、インターネットを使って株主総会に参加し、議決権を行使することは可能である。
(ii) 議決権の行使は、電子投票(298 条 1 項 4 号)ではなく、その株主が招集場所で開催されている株主総会に出席し、その場で議決権を行使したものと評価されることとなる。
(iii) 株主総会議事録には、株主総会の開催場所に存しない株主の出席の方法を記載する必要がある(施行規則 72 条 3 項 1 号)。同号は「株主の所在場所及び出席の方法」等という規定を置いているわけではなく、株主の所在場所は議事録に記載することを要しない。ただし、出席の方法としては、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要である。
また、オンライン等の手段を用いた「出席」として提供する以上、会社は、株主総会において株主に認められた議決権行使を初めとする諸権利の行使に係るリアル株主総会との違いについて、事前に説明を行うなど、適切な対応を行う必要があります。
加えて、ベンチャー企業では、あまり考えられませんが、具体的に、株主のなりすましや議決権行使の脅迫等の可能性が存在するのであれば、これらの点には、ご留意下さい。
4 取締役・監査役等のオンラインでの出席
取締役・監査役の出席は、総会における決議成立の要件ではなく、また、出席義務を定めた規定もありません。一方で、取締役、会計参与、監査役及び執行役は、原則として、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならないという説明義務があります(会社法第314条)。
したがって、株主総会において、取締役・監査役等が、株主総会の開催場所と当該取締役・監査役等との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあり、それぞれの説明義務を果たすことができるのであれば、オンラインでの出席は、認められると考えられます(筆者私見)。
但し、議長は、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有する者であり(会社法第315条第1項)、ベンチャー企業であっても、特段の事情がない限り、株主総会の開催場所に実際にいる必要があると考えます(筆者私見)。
5 規模縮小などの対応策
実際の開催にあたっては、規模縮小への対応策や、総会当日の感染防止策等が必要になります。
具体的には、(a)事前の議決権行使の推奨、(b)オンライン(ハイブリッド型バーチャル)株主総会の実施におけるオンラインでの出席への誘導、(c)お土産の廃止、(d)株主懇親会等のイベントの中止、のほか(e)、関係者のマスク着用や(f)アルコール消毒液の設置、(g)発熱があるや体調が悪い方に来場を控えてもらう、といった一般的な対策及びその告知等が考えられます。
6 実際のバーチャル株主総会実施の動き
上場企業でも、いわゆるバーチャル株主総会が実施されつつあるとのことです。
■■■引用開始■■■
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中企業の間で大勢の株主が参加する株主総会をどう開催するかが課題になっています。感染を防ぐため株主が自宅からインターネットを通じて総会に出席する新たな動きが始まりました。
■■■引用終わり■■■
■■■引用開始■■■
新型コロナウイルスの感染拡大で大勢の人が集まるイベントの自粛が広がる中、ソフトウエア開発を手がける「富士ソフト」は13日、ネットも活用してバーチャル株主総会を開きました。
東京・千代田区の会場のほか、ネットからも出席できるようにし、株主はアプリを操作して総会の議案の賛否を表明していました。
■■■引用終わり■■■
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200314/k10012330981000.html
(文責 森 理俊)